大事な試合ほど、いつもの自分でプレーするのは難しくなります。
勝たなければいけない。
絶対に負けられない。
ここで結果を出したい。
チームに迷惑をかけたくない。
その思いが強くなるほど、心の中には不安が増えていきます。
ある大学サッカー選手とのセッションで、首位争いの大事な試合を振り返ることがありました。
その選手は、調子が良い時には、考えすぎず自然にプレーできる感覚を持っていました。
身体が自然に動く。
周りが見える。
判断が速い。
プレーに迷いが少ない。
いわゆる「良い状態」です。
ところが、大事な試合では少し違うことが起きていました。
試合前から「絶対に負けられない」「勝たなければいけない」というプレッシャーがありました。
この時点で、心のコップには不安の水が増えていたのだと思います。
不安の水が増えると、判断の余白が減る
私は選手たちに、心の状態を「心のコップ」で説明することがあります。
心のコップの中には、安心の水と不安の水がある。
安心の水が多い時は、周りが見えやすい。
判断もしやすい。
身体も動きやすい。
一方で、不安の水が増えると、心の余白が少なくなります。
「失敗したらどうしよう」
「負けたらどうしよう」
「自分のせいになったらどうしよう」
「周りにどう見られるだろう」
こうした思考が増えると、頭の中がいっぱいになります。
少し専門的に言えば、脳の作業スペースであるワーキングメモリーが、不安や焦りに使われてしまう状態です。
サッカーでは、プレー中にたくさんの情報を処理しています。
相手の位置。
味方の位置。
スペース。
ボールの置き所。
次のプレー。
試合の流れ。
本来なら、こうした情報を瞬時に見て判断します。
でも、不安の水が増えすぎると、そのための余白が減ります。
すると、判断が一瞬遅れる。
反応が一瞬遅れる。
普段ならしない選択をしてしまう。
普段なら見えているものが見えにくくなる。
その一瞬の遅れが、サッカーでは大きな差になります。
ミスの後に、自責と恥ずかしさが強くなる
その試合では、先に失点しました。
失点すると、不安の水はさらに増えます。
「やばい」
「取り返さなきゃ」
「もうミスできない」
「このまま負けたらどうしよう」
焦りが強くなると、判断はさらに難しくなります。
そして、普段ならしないような判断ミスや判断の遅れが出ることがあります。
パフォーマンスが高い時には、自然にプレーできる感覚を持っている。
でも、重要な試合でミスが起きると、自責や恥ずかしさが強まり、ワーキングメモリーが圧迫されて、プレーの質が落ちやすくなる。
この構造に、本人が気づいたことが大きかったのです。
ミスそのものだけが問題なのではありません。
ミスの後に、
「何をやっているんだ」
「申し訳ない」
「恥ずかしい」
「またやったらどうしよう」
という内側の声が強くなる。
その声に頭のスペースを取られることで、次のプレーに必要な判断や準備が遅れてしまう。
ここに、立て直しのポイントがあります。
ミスをしたら、まず顔を上げる
では、どうすればよいのでしょうか。
今回、読者に持ち帰ってほしいことは一つです。
ミスをしたら、まず顔を上げる。
これだけです。
顔を上げるという行動は、とてもシンプルです。
でも、意味があります。
顔を上げると、相手が見えます。
味方が見えます。
スペースが見えます。
次にやるべきことが見えます。
つまり、自責の世界から、もう一度サッカーの状況に戻ることができます。
ミスをした後、人はどうしても内側に入ります。
「自分のせいだ」
「やってしまった」
「恥ずかしい」
「また怒られるかもしれない」
そうやって意識が内側に向くと、周りが見えにくくなります。
だからこそ、まず顔を上げる。
自分を責める前に、顔を上げる。
取り返そうと焦る前に、顔を上げる。
次のプレーに入る前に、顔を上げる。
この小さな行動が、心を試合に戻してくれます。
目指すのは、ミスをなくすことではない
もちろん、ミスを減らす努力は大切です。
技術を高める。
判断を磨く。
準備をする。
それは必要です。
ただ、サッカーでミスをゼロにすることはできません。
どれだけ良い選手でも、ミスは起きます。
大事な試合でも、想定外は起きます。
失点することもあります。
だから、ミスをなくすことだけを理想にすると、ミスが起きた時に崩れやすくなります。
大切なのは、ミスが起きても自分を責めすぎず、短時間で元の状態に戻る力を育てることです。
リバウンドメンタリティーとは、崩れないことではありません。
崩れても戻れることです。
そのための最初の一歩として、
ミスをしたら、まず顔を上げる。
この一つを決めておく。
それだけでも、ミスの後のプレーは変わります。
不安は、次の行動に変えられる
不安があるから弱いのではありません。
不安があるのは、それだけ本気で向き合っているからです。
ただし、不安の水が増えすぎると、頭の余白が減り、判断が遅れ、いつものプレーが出にくくなることがあります。
だから、不安を責めない。
でも、そのまま放っておかない。
不安を消そうとするより、不安を行動に変える。
今回なら、その行動は一つです。
顔を上げる。
あなたや選手は、ミスをした後に、どんな内側の声が強くなりますか。
そして、その声に飲まれそうになった時、まず顔を上げることができるでしょうか。
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