サッカーの試合で、選手は必ずミスをします。
パスがずれる。
トラップが浮く。
判断が遅れる。
シュートを外す。
失点に関わる。
PKを止められない。
どれだけ準備しても、ミスがゼロになることはありません。
もちろん、ミスを減らす努力は大切です。
技術を高めることも、判断を磨くことも、準備の質を上げることも必要です。
ただ、メンタルコーチとして選手と話していると、もう一つ大事な視点が見えてきます。
それは、ミスをしたかどうか以上に、ミスの後にどんな状態で次のプレーに入れているかです。
ミスの後、選手の心の中では、外からは見えない会話が始まります。
「何をやっているんだ」
「自分のせいだ」
「恥ずかしい」
「みんなに見られている」
「申し訳ない」
この内側の声が強くなると、次のプレーは小さくなります。
強い選手とは、ミスをしない選手ではありません。
ミスをしても、自分を責めすぎず、次のプレーに戻れる選手です。
ミスをなくそうとしすぎると、選手は硬くなる
ミスをしてはいけない。
そう思えば思うほど、選手の身体は硬くなります。
安全なプレーを選ぶ。
判断が遅れる。
思い切ったプレーが減る。
ボールを受ける前に、少し逃げたくなる。
勝負所で、身体より先に頭が重くなる。
指導者や保護者が「ミスするな」と言えば言うほど、選手の頭の中では「ミスしたらどうしよう」が大きくなります。
もちろん、大人も悪気があって言っているわけではありません。
勝たせたい。
成長してほしい。
同じミスを繰り返してほしくない。
その思いがあるからこそ、つい強く言いたくなります。
私も現場にいれば、心の中で「そこは丁寧に」とつぶやくことはあります。
たぶん顔にも少し出ています。まだまだ修行中です。
でも、選手が試合中に必要としているのは、ミスを恐れる心ではありません。
ミスをしても戻れる心です。
問題はミスではなく、ミスの後の自動思考
最近の個人セッションでも、複数の選手に共通するテーマがありました。
ある大学サッカー選手は、重要な試合でミスをした後に、自責の念や恥ずかしさが強くなっていました。
「自分のせいだ」
「何をやっているんだ」
「また見られている」
そうした思考が頭の中を回り、次のプレーの質が落ちていました。
また、あるゴールキーパーは、PKや勝負所で「止めたい」「チームに貢献したい」という気持ちが強くなるほど、結果に意識が向きすぎることに気づきました。
止めたい気持ちは悪いものではありません。
むしろ責任感です。
ただ、その思いが強くなりすぎると、身体が硬くなる。
相手を見るより、結果が気になる。
準備姿勢より、「止められるかどうか」に意識が向く。
すると、本来の反応や読みが出にくくなる。
この二人に共通していたのは、ミスそのものではありません。
ミスの後に、心の中で何が起きているかでした。
心理学では、ABC理論という考え方があります。
Aは出来事。
Bはその出来事の捉え方。
Cは感情や行動。
たとえば、Aは「ミスをした」「失点した」「PKを止められなかった」という出来事です。
その後に、Bとして捉え方が出てきます。
「自分のせいだ」
「申し訳ない」
「自分はダメだ」
そしてCとして、感情や行動が変わります。
焦る。
恥ずかしくなる。
身体が硬くなる。
視野が狭くなる。
次のプレーが小さくなる。
つまり、ミスそのものだけが選手を崩しているわけではありません。
ミスの後に出てくる自動思考が、次のプレーに影響しているのです。
頭の中が自責でいっぱいになると、プレーの余白がなくなる
ミスの後に自分を責める声が強くなると、脳の作業スペースがその思考に使われてしまいます。
パソコンで言えば、重いアプリをいくつも開いたまま試合をしているようなものです。
それは少し言いすぎかもしれませんが、選手の中では本当にそれに近いことが起きます。
「やばい」
「自分のせいだ」
「次もミスしたらどうしよう」
「どう見られているだろう」
こうした声で頭の中がいっぱいになると、今見るべきものが見えにくくなります。
視野が狭くなる。
判断が遅れる。
反応が鈍る。
声が出なくなる。
次のプレーが消極的になる。
これは気持ちが弱いからではありません。
頭の中の作業スペースが、自責や不安に使われてしまっているのです。
だからこそ、ミスの後に必要なのは「気にするな」だけではありません。
何が起きているのかに気づくこと。
そして、今できる行動に戻ることです。
結果ではなく、行動に戻る
勝負所で「絶対に止めたい」「絶対にミスできない」と思うことは、決して悪いことではありません。
それは責任感です。
チームへの思いです。
勝ちたい気持ちです。
ただ、結果に意識が向きすぎると、身体は硬くなりやすい。
だから大切なのは、結果をどうにかしようとすることではなく、自分がコントロールできる行動にフォーカスすることです。
相手を見る。
準備姿勢を取る。
呼吸を整える。
次のポジションを取る。
味方に声をかける。
最初の一歩を速くする。
結果を手放すとは、どうでもいいと思うことではありません。
勝ちたいからこそ、結果ではなく行動にフォーカスする。
ここが大切です。
「止めたい」から「相手を見る」へ。
「ミスできない」から「次の準備」へ。
「申し訳ない」から「顔を上げる」へ。
「自分のせいだ」から「次の一つ」へ。
この切り替えができる選手は、試合の中で戻りやすくなります。
戻る力は練習できる
ミスの後に戻る力は、生まれつきの性格だけで決まるものではありません。
練習できます。
たとえば、ミスの後に自分の中で出てくる言葉を書き出してみる。
「何をやっているんだ」
「またやった」
「自分のせいだ」
「見られている」
こうした言葉に気づくだけでも、少し距離が取れます。
次に、戻る言葉を決めておく。
「次の一つ」
「顔を上げる」
「呼吸」
「準備に戻る」
「プレーを小さくしない」
試合中に使える言葉は、短い方がいいです。
長い名言は、試合中にはなかなか出てきません。
「人生とは」から始まる言葉を思い出している間に、相手はもう背後を取っています。
だから、短くて自分に戻りやすい言葉がいい。
そして、呼吸を整える。
次の一つの行動に集中する。
試合前に、ミスや失点を想定してメンタルリハーサルをしておく。
「もしミスをしたら、まず呼吸」
「失点したら、顔を上げて味方に一言」
「PKを止められなくても、次のプレーの準備に戻る」
こうした小さな準備が、試合中の立て直しにつながります。
指導者・保護者ができること
選手がミスをした時、大人が最初にできることは、責めることではありません。
まず必要なのは、選手が次に戻れる状態をつくることです。
「大丈夫。次の一つに戻ろう」
「今できることは何?」
「次の準備に戻ろう」
「顔を上げよう」
「まず呼吸しよう」
こうした声は、ミスをなかったことにする声ではありません。
ミスはミスとして受け止める。
必要な修正はする。
でも、試合中に選手を責め続けても、次の良いプレーは生まれにくい。
振り返りは、試合後でもできます。
映像を見て確認する。
判断を整理する。
技術的な課題を洗い出す。
次の練習で改善する。
それは必要です。
でも、試合中に必要なのは、次のプレーに戻る力です。
保護者の方にも、同じことが言えると思います。
試合後につい、
「なんであそこでミスしたの」
「もっと集中しなさい」
「また同じことをしていたよ」
と言いたくなることがあります。
それも、子どもを思うからこその言葉です。
ただ、子どもが一番苦しんでいる時に、さらに自責を強める言葉が重なると、次へのエネルギーが小さくなることがあります。
まずは、
「悔しかったね」
「次は何を意識したい?」
「戻ろうとしていたところは見ていたよ」
そんな声から始めてもいいのではないでしょうか。
強い選手は、ミスをしても戻れる
強い選手とは、ミスをしない選手ではありません。
ミスをしても戻れる選手です。
強いチームとは、ミスを責め合わないチームではありません。
ミスの後に、もう一度プレーに戻れる声と空気があるチームです。
ミスをなくすより、ミスの後に戻る力を育てる。
それが、これからの育成年代に必要なリバウンドメンタリティーだと思います。
選手は、崩れることがあります。
落ち込むこともあります。
恥ずかしくなることもあります。
自分を責めることもあります。
でも、そこで終わりではありません。
呼吸を整える。
戻る言葉を持つ。
次の一つの行動に集中する。
仲間の声で戻る。
大人の関わりで戻る。
その積み重ねが、選手の心の体幹を育てていきます。
次に選手がミスをした時、何を直すかの前に、まずどう戻るかを一緒に考えてみてください。
その小さな関わりが、選手の次の一歩を支えるかもしれません。
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