ある大学サッカー選手が、6ヶ月間の個人メンタルコーチングを振り返って、こんな言葉を書いてくれました。
「心を整えることで、プレーが変わることを実感した」
この一言を読んだ時、私はメンタルコーチングの本質が、とてもよく表れていると感じました。
心を整える。
簡単そうに見えて、とても深い言葉です。
気合いを入れることではありません。
無理やり前向きになることでもありません。
不安や悔しさを消すことでもありません。
自分の状態に気づく。
崩れた時に戻る。
次のプレーに向かえる状態をつくる。
その積み重ねが、少しずつプレーを変えていくのだと思います。
心を整えることで、感情に飲まれにくくなる
サッカーをしていれば、心は揺れます。
不安になる。
悔しくなる。
焦る。
落ち込む。
評価が気になる。
ミスを引きずる。
これは自然なことです。
大切なのは、そうした感情を消すことではありません。
「今の自分は不安なんだな」
「ミスを引きずっているな」
「今日は少し余裕がないな」
そう気づけるようになることです。
気づけると、感情に飲まれっぱなしではなくなります。
もちろん、気づいたからといって、すぐに全部が整うわけではありません。
不安は不安です。
悔しさは悔しさです。
焦りは焦りです。
でも、自分の状態に気づけると、少し距離ができます。
「ああ、今の自分は焦っているな」
「だから判断が雑になっているな」
「まず呼吸しよう」
こうして、自分を少し客観的に見られるようになる。
これが、心を整える第一歩です。
ミスの後に、心の中で何が起きているか
試合中にミスをした後、選手の心の中にはいろいろな声が出ます。
「何をやっているんだ」
「またミスした」
「見られている」
「次も失敗したらどうしよう」
「自分のせいだ」
こういう声は、勝手に頭に浮かんできます。
心理学では「自動思考」と呼ばれます。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、ミスをした瞬間に頭の中で勝手に流れるひとり言です。
このひとり言が悪いわけではありません。
ミスをすれば、誰でも焦ります。
恥ずかしさも出ます。
悔しさも出ます。
取り返したい気持ちも出ます。
ただ、その声に飲まれすぎると、次のプレーが小さくなります。
ボールを受けるのが怖くなる。
判断が遅れる。
安全なプレーばかりを選ぶ。
声が出なくなる。
身体が硬くなる。
だから大切なのは、ミスをしない選手になることではありません。
ミスをした後に、もう一度いつの通りのプレーに戻れる選手になることです。
これが、リバウンドメンタリティーです。
リバウンドメンタリティーとは、崩れない力ではありません。
崩れても、戻れる力です。
戻るための3ステップ
では、ミスの後にどう戻ればよいのでしょうか。
私は、選手にはできるだけシンプルに伝えたいと思っています。
戻るためのステップは、3つです。
1. 頭の中の声に気づく
まず、自分の中でどんな声が出ているかに気づきます。
「またやった」
「自分はダメだ」
「怒られるかもしれない」
「もうミスできない」
この声に気づけないと、そのまま飲まれてしまいます。
でも、
「あ、今、自分を責める声が出ているな」
「今、次も失敗したらどうしようと思っているな」
と気づけるだけで、少し距離ができます。
頭の中の声は、事実とは限りません。
「自分はダメだ」と思っても、本当にダメな選手になったわけではありません。
まずは、気づく。
ここが戻る力の第一歩です。
2. 深呼吸して、体を落ち着かせる
次に、体を落ち着かせます。
おすすめは、深呼吸です。
一度、息を吐く。
少しゆっくり吸う。
もう一度、長く吐く。
これだけでいいです。
ミスをした後は、心だけでなく体も焦っています。
呼吸が浅くなる。
肩に力が入る。
目線が下がる。
足が止まる。
だから、まず呼吸で体を戻す。
深呼吸は、心を無理やり前向きにするためのものではありません。
次のプレーに戻るために、体を整えるスイッチです。
3. 今やることに言葉を変える
最後は、意識を「今やること」に戻します。
ミスの後は、
「またミスした」
「自分のせいだ」
「もう失敗できない」
という言葉が出やすくなります。
このままだと、意識は過去のミスや未来の不安に向いたままです。
そこで、頭の中の言葉を、プレーに戻る言葉に変えます。
「自分はダメだ」を、
「次の一つ」に変える。
「またミスした」を、
「まず顔を上げる」に変える。
「もう失敗できない」を、
「今できることを一つやる」に変える。
難しい心理学の言葉で言えば、認知再構成法やリフレーミングに近い考え方です。
でも、選手にはこう伝えれば十分です。
頭の中の言葉を、プレーに戻る言葉に変える。
言葉が変わると、意識が変わります。
意識が変わると、次の行動が変わります。
ミスをなくすより、戻る練習をする
サッカーでミスをゼロにすることはできません。
どれだけ上手い選手でも、ミスはします。
だから、ミスをしない選手になることだけを目指すと、ミスをした時に苦しくなります。
大切なのは、ミスをした後に戻る練習をしておくことです。
1.頭の中の声に気づく。
2.深呼吸して、体を落ち着かせる。
3.今やることに言葉を変える。
この3つです。
6ヶ月続けると、選手の言葉が変わる
メンタルコーチングの価値は、話して少し楽になることだけではありません。
自分の状態に気づけるようになる。
自分の課題を言葉にできるようになる。
自分の変化を自分で説明できるようになる。
ここに大きな意味があります。
6ヶ月前は、うまく言葉にできなかったことが、少しずつ言葉になる。
ミスを引きずる。
評価が気になる。
試合中に崩れる。
日常のコンディションに波がある。
そうした課題を、選手自身が自分の言葉で整理できるようになっていく。
そして、
「心を整えることで、プレーが変わる」
と表現できるようになる。
これは派手な成功談ではありません。
でも、とても大きな変化です。
なぜなら、自分の課題を自分の言葉で言える選手は、自分で成長を設計できるようになるからです。
心を整える力は、練習できるスキル
心を整える力は、特別な才能ではありません。
練習できるスキルです。
ミスをしたら、気づく。
呼吸する。
今やることに戻る。
この小さな繰り返しが、崩れても戻れる力を育てていきます。
心を整えることで、プレーは変わる。
それは、感情を消すことではありません。
自分の状態に気づき、崩れた時に戻り、次の一歩を選び直せるようになることです。
あなたや選手は、ミスをした後に、どんな頭の中の声が出やすいでしょうか。
そして、その声を、どんな「次の一つ」に変えられるでしょうか。
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