強いチームは、ピッチの中で自分たちで戻れる

ワールドカップ初戦。
日本代表はオランダ代表と2対2で引き分け、勝ち点1を獲得しました。

この試合については、戦術面、采配面、個人のプレーなど、すでに多くの方がいろいろな角度から考察していると思います。

私は戦術評論家ではありません。
ですので、ここではあくまでもメンタルコーチの視点から、

「この試合は、こういう見方もできるのではないか」

という一つの視点として書いてみたいと思います。

私がこの試合で最も強く感じたのは、

強いチームは、ピッチの中で自分たちで戻れる

ということでした。

強豪相手に先に失点する怖さ

前半を0対0で折り返した日本は、後半の早い時間帯に先制を許しました。

強豪国相手に先に失点する。

これは、見ている以上に選手にとっては大きな心理的負荷があると思います。

「やっぱり強い」
「またやられるかもしれない」
「ここで無理に行くと危ない」
「でも行かないと追いつけない」

そうした迷いや不安が、ほんの少しずつプレーに影響します。

寄せの半歩が遅れる。
判断が少し遅れる。
声が減る。
前に出る勇気が少し弱くなる。

その小さなズレが重なると、2点目、3点目と連続失点につながることがあります。

だからこそ、試合後に鎌田大地選手が語っていたように、強豪相手に先に失点しても崩れず、耐えて追いついたことには大きな意味があると感じます。

これは、単に「諦めなかった」という話だけではないと思います。

失点した後に、チームとして崩れかける可能性がある。
それでも、そこからもう一度試合に戻っていく。

ここに、チームのメンタルの強さが出ます。

日本は2度戻った

日本は、1度目の失点の後、久保建英選手から中村敬斗選手へとつながり、中村選手の見事なシュートで同点に追いつきました。

しかし、その後に再びオランダに勝ち越しを許します。

ここで、もう一度心理的に難しい時間が来ました。

一度追いついた後に、また突き放される。

これはかなりきつい展開です。

「せっかく追いついたのに」
「また振り出しに戻った」
「この相手にもう一度追いつけるのか」

こうした感情が出ても不思議ではありません。

でも、日本はそこで終わりませんでした。

後半44分。
コーナーキックから小川航基選手が競り、最後は鎌田大地選手に当たったボールがゴールへ入り、2対2。

日本は2度リードされ、2度追いつきました。

これは、勝利ではありません。
しかし、メンタルコーチの視点から見ると、非常に大きな成功体験だと思います。

ハーフタイムを挟まなかったことの意味

今回の試合で特に大きいと感じたのは、追いつくまでの立て直しが、ハーフタイムを挟んでいないことです。

ハーフタイムであれば、監督やスタッフが選手を落ち着かせることができます。

戦術を整理する。
修正点を伝える。
気持ちを切り替えさせる。
もう一度チームを整える。

そういう時間があります。

しかし、今回の日本代表は、後半の流れの中で失点し、そのままピッチ上で戻っていきました。

選手たちが状況を受け止める。
声を掛け合う。
判断する。
行動する。
もう一度前に出る。

つまり、外から整えられたというより、ピッチの中で自分たちで戻った。

ここに大きな価値があると思います。

強いチームは、ベンチの指示を待つだけではありません。

もちろん、監督やスタッフの準備、采配、交代策は大きい。
そこは間違いなく土台です。

ただ、この試合は、

監督の設計と采配を土台に、ピッチ上の選手たちが自分たちで戻った試合

だったように見えました。

森保監督の采配とチーム日本の総合力

森保監督の采配が当たった試合でもあったと思います。

交代選手の投入。
終盤の攻勢。
ベンチメンバーの準備。
スタッフの分析。
ピッチ上の選手の技術と体力。
最後まで崩れないメンタリティー。

それらが重なって、勝ち点1につながった。

監督一人の力でもなく、誰か一人の個人技だけでもない。

まさに「チーム日本」としての総合力でつかんだ勝ち点1だったのではないでしょうか。

試合後、日本の選手たちはガッツポーズをし、ピッチ上で勝ち点1をつかんだ実感を表していました。

一方で、オランダの選手たちはうなだれていました。

同じ2対2でも、意味は違います。

日本にとっては、追いついた引き分け。
オランダにとっては、勝ち点3を逃した引き分け。

この心理的な余韻は、次の試合にも影響する可能性があります。

日本には、

「自分たちは強豪相手にも戻れる」

という自己効力感が残ります。

オランダには、

「勝てた試合を最後に逃した」

という感覚が残ります。

同じスコアでも、心に残るものはまったく違うのです。

成功体験とは、勝った経験だけではない

スポーツでは、成功体験というと「勝った経験」を思い浮かべがちです。

もちろん、勝つことは大きな成功体験です。

でも、成功体験は勝利だけではありません。

失点しても終わりではない。
流れが悪くなっても戻れる。
最後までやれば何かを起こせる。
強豪相手にも崩れずに戦える。

こういう感覚も、チームにとって大きな成功体験です。

今回の日本代表は、オランダに勝ったわけではありません。

しかし、2度リードされながら2度追いつきました。

この経験は、次の試合以降の支えになると思います。

「また苦しい時間が来ても、自分たちは戻れる」

この感覚があるチームは強い。

これが、私が大切にしているリバウンドメンタリティーです。

崩れないことを目指すのではない。
崩れかけても戻れることを目指す。

強いチームとは、最初から最後まで完璧なチームではありません。

悪い流れになった時に、もう一度自分たちの基準に戻れるチームです。

育成年代のチームに置き換えると

この話は、育成年代のサッカーチームにもそのままつながります。

育成年代の試合では、失点後にチームが一気に崩れることがあります。

一人がミスをする。
周りの声がなくなる。
仲間を責める声が出る。
ベンチを見る選手が増える。
判断が遅れる。
また失点する。

これは、技術だけの問題ではありません。

チームとして「戻る力」が育っているかどうかの問題でもあります。

失点後に、どんな声を掛け合うのか。
ミスした選手に、どんな声をかけるのか。
流れが悪くなった時に、何を基準に戻るのか。
ピッチ上の選手同士で、何を確認するのか。

ここを日頃から育てておく必要があります。

指導者がすべて答えを出すチームは、外から整えられるチームになります。

それも大切です。

でも、試合中は監督がピッチに入ることはできません。
最後に戻るのは、選手たち自身です。

だからこそ、

教えるから、引き出すへ。
崩れないチームではなく、崩れても戻れるチームへ。
外から整えられるチームではなく、中から戻れるチームへ。

この視点が大切になると思います。

安心と基準があるチームは、戻りやすい。

安心があるから、ミスした選手が顔を上げられる。
基準があるから、流れが悪くてもやるべきことに戻れる。
声があるから、ピッチの中で仲間を戻せる。

こうしたチーム文化は、一日ではできません。

日々の練習の中で、少しずつ育てていくものです。

おわりに

日本代表のオランダ戦は、2対2の引き分けでした。

でも、メンタルコーチの視点から見ると、勝ち点1以上の価値を持つ試合だったように感じます。

先に失点しても戻った。
また失点しても戻った。
しかも、ハーフタイムを挟まず、ピッチの中で戻った。

そこに、今の日本代表の強さが見えた気がします。

強いチームとは、崩れないチームではありません。

崩れかけても、もう一度戻れるチームです。

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