味方の一言で、選手のプレーは小さくなる

サッカーの現場では、味方同士で強い要求が飛び交うことがあります。

「前向けよ」
「出せよ」
「何やってんだよ」
「もっと強く行けよ」

こうした声が、すべて悪いわけではありません。

勝ちたい。
もっと良くなってほしい。
チームとして基準を上げたい。

その思いから出ている言葉もあると思います。

サッカーは仲良しクラブではありません。
時には要求も必要です。
基準を上げるために、厳しい声が必要な場面もあります。

ただ、ここで一つ考えたいことがあります。

その声は、味方を強くしているでしょうか。
それとも、味方のプレーを小さくしているでしょうか。

言葉の内容が正しくても、言い方によっては、味方の自信や勇気を奪ってしまうことがあります。

そして結果的に、チーム全体のパフォーマンスを下げてしまうこともあります。

ある選手のケース

ある高校サッカー選手との個人セッションで、こんな話が出ました。

練習中、ボールを受けた時に相手の強いプレスが来ていました。

本人は、その瞬間にこう判断しました。

「ここで前を向くと奪われるかもしれない」
「一度GKに戻して、やり直した方が安全だ」

そこで、GKへ戻しました。

しかし前方の味方からは、強い口調で言われました。

「前向けよ」
「出せよ」

また別の場面では、接触プレーの後に、かなりきつい言葉を受けたこともあったそうです。

もちろん、味方にも言い分はあると思います。

前を向ける場面だったのかもしれません。
もっと早く見てほしかったのかもしれません。
勝つために、厳しく要求したかったのかもしれません。

だから、どちらが正しいかをここで裁きたいわけではありません。

大事なのは、その後に何が起きたかです。

その選手の頭の中では、次のような言葉が回り始めました。

「また言われないようにしよう」
「強く行くと怒られる」
「あの選手に当たらないようにしよう」
「自分が悪いのかもしれない」

すると、プレーが一気にグダグダになっていきました。

ミスを減らそうとする。
怒られないようにする。
強く行く場面で少し遠慮する。
判断が遅れる。
思い切りがなくなる。

つまり、プレーが小さくなっていったのです。

これは、本人の弱さだけで片づけられる話ではありません。

チーム内の言葉が、選手の判断や勇気に影響しているということです。

なぜプレーは小さくなるのか

ここで、少しだけ心の仕組みを整理してみます。

人は、出来事そのものだけで反応しているわけではありません。

出来事をどう受け取ったかによって、感情や行動が変わります。

たとえば今回の場合。

出来事は、味方から強く言われたことです。

「前向けよ」
「出せよ」
きつい言葉を受けた。

これが出来事です。

その次に、選手の頭の中で捉え方が生まれます。

「自分が悪い」
「また怒られないようにしよう」
「強く行くとまた言われる」
「自分はダメなのかもしれない」

すると、感情や行動が変わります。

自信が下がる。
勇気がなくなる。
判断が遅れる。
プレーが小さくなる。
強度が落ちる。
チャレンジしなくなる。

この流れは、心理学ではABC理論として説明されることがあります。

Aは出来事。
Bは捉え方。
Cは感情や行動。

硬く言うと少し授業っぽくなりますが、現場で言えばこうです。

何を言われたかだけでなく、選手がそれをどう受け取ったかで、次のプレーが変わる。

ここが大事です。

同じ「前向けよ」でも、信頼関係があり、言い方が整理されていれば、次のチャレンジにつながることがあります。

でも、責められたように受け取ると、選手は「次は怒られないようにしよう」と考えます。

その瞬間、プレーの目的が変わります。

ゴールを目指すプレーではなくなる。
チームを前進させるプレーではなくなる。
怒られないためのプレーになる。

これは、かなり大きな違いです。

要求と攻撃は違う

チームが強くなるためには、要求が必要です。

味方に何も言わない。
ミスしても見て見ぬふり。
基準が下がっても何となく流す。

これでは、チームは強くなりません。

だから、要求そのものは大切です。

ただし、要求と攻撃は違います。

要求は、次のプレーを良くするためにあります。
攻撃は、相手を小さくしてしまいます。

要求は、行動に向かいます。
攻撃は、人格に刺さります。

たとえば、

「今の場面、次は前を見てほしい」
「受ける前に一回見ておこう」
「次はワンタッチで外に逃がそう」
「もう一回受けて。次はできる」

これは、次の行動につながる声です。

一方で、

「何やってんだよ」
「だからダメなんだよ」
「お前のせいだろ」
「ちゃんとやれよ」

こうした言葉は、相手の中に自己否定を生みやすくなります。

もちろん、試合中や練習中は感情も動きます。

きれいな言葉だけでサッカーができるわけではありません。
私も現場にいたら、つい強く言いたくなる場面はあります。
心の中では、審判より早く笛を吹いている時もあります。

でも、強いチームをつくるなら、ここは丁寧に見たいところです。

その声は、味方の出力を上げているのか。
それとも、味方の出力を下げているのか。

要求の内容は正しくても、言い方で選手の力を奪っていないか。

ここに、チームの文化が出ます。

チームを強くする声とは

本当にチームを強くする声は、味方を萎縮させる声ではありません。

味方が次のプレーに戻れる声です。

たとえば、

「次いこう」
「大丈夫」
「もう一回受けろ」
「今の判断はOK。次は前を見よう」
「切り替えよう」
「もう一回強く行こう」
「顔上げよう」

こうした声は、ミスをなかったことにする声ではありません。

基準を下げる声でもありません。

ミスはミスとして受け止める。
でも、その選手が次のプレーに戻れるようにする。

ここが大切です。

リバウンドメンタリティーとは、崩れないことではありません。

崩れても戻れることです。

そしてチームで考えるなら、味方を戻せることです。

サッカーでは、ミスは必ず起きます。
失点も起きます。
判断がずれることもあります。
要求がぶつかることもあります。

大事なのは、その後です。

ミスした選手が、次のプレーに戻れるか。
強く要求された選手が、小さくならずにもう一度関われるか。
チームの声が、落ちた選手を戻す方向に働いているか。

強いチームは、ミスを責め合うチームではありません。

崩れた選手が戻れる声を持っているチームです。

指導者が見たいポイント

指導者としては、選手同士の声の質を見ておくことが大切です。

声が出ているかどうかだけではありません。

どんな声が出ているか。
誰の声が届いているか。
その声を受けた選手のプレーがどう変わっているか。

ここを見る必要があります。

一見すると、厳しい声が出ていて良い雰囲気に見えることもあります。

でも、その後に味方が萎縮しているなら、少し調整が必要です。

選手同士の要求を止める必要はありません。

むしろ、要求は大切です。

ただし、要求の仕方は育てる必要があります。

「その声は、味方を強くしているか。それとも小さくしているか」
「要求の内容は正しくても、言い方で選手の出力を下げていないか」
「ミスした選手が、次のプレーに戻れる空気があるか」
「厳しさと、傷つける言葉が混同されていないか」

こうした問いを、チームで共有してもよいと思います。

特に育成年代では、選手はまだ言葉の使い方を学んでいる途中です。

強く言うことがリーダーシップだと思っている選手もいます。
厳しい言葉を使うことが、本気の証拠だと思っている選手もいます。

だからこそ、指導者が「要求」と「攻撃」の違いを言葉にしてあげることが大切です。

保護者にも起きること

これは、サッカーのピッチの中だけの話ではありません。

家庭でも似たことは起きます。

子どもを見ていて、つい言いたくなることがあります。

「なんでできないの」
「もっとやりなさい」
「また同じミスをして」
「ちゃんと考えたの」

親としては、子どものためを思って言っていることが多いと思います。

私も親の立場なら、きっと言いたくなります。
というより、たぶん言ってきたこともあります。

でも、その一言で、子どもの挑戦する力が小さくなることもあります。

失敗した時に責められる。
うまくいかない時に否定される。
結果が出ない時に価値が下がったように感じる。

そうなると、子どもは挑戦よりも防御を選びやすくなります。

大切なのは、失敗をなかったことにすることではありません。

失敗した後に、次へ戻れる声をかけることです。

「悔しかったね」
「次に何を試す?」
「どこまでは良かった?」
「もう一回やってみよう」
「結果は残念だったけど、戻ろうとしていたところは見ていたよ」

こうした言葉が、子どもの次の一歩を支えます。

選手自身ができること

最後に、選手自身にも伝えたいことがあります。

強い言葉を受けた時、その言葉の全部を自分の否定として受け取らなくていい。

「あの一言はきつかった」
「でも、自分の全部が否定されたわけではない」
「今は次の一プレーに戻ろう」
「プレーを小さくしない」

こうやって、自分の中で言葉を置き直すことが大切です。

もちろん、きつい言葉を受ければ傷つきます。

それは自然なことです。

強い選手とは、何を言われても平気な選手ではありません。

傷ついても、揺れても、次のプレーに戻れる選手です。

そのために、自分の戻る言葉を持っておく。

深呼吸する。
「ドンマイ」と自分に言う。
「次の一プレー」とつぶやく。
「プレーを小さくしない」と決める。
「今の一言は、自分の全部の否定ではない」と確認する。

これも、セルフコーチングです。

味方の言葉に影響を受けることはあります。
でも、その言葉に自分のプレーを全部預けなくていい。

自分のプレーを、小さくしない。

これは、選手にとって大切な心の基準です。

まとめ

味方の一言は、選手のプレーを小さくすることがあります。

でも反対に、味方の一言が、選手をもう一度立ち上がらせることもあります。

要求は必要です。
厳しさも必要です。
基準を上げる声も必要です。

ただし、その声が味方を萎縮させているなら、チームの力は上がりません。

本当にチームを強くする声とは、味方を責める声ではなく、味方が次のプレーに戻れる声です。

強いチームは、ミスをしないチームではありません。

ミスした後に戻れるチームです。
崩れた選手を、もう一度プレーに戻せるチームです。

次の練習で、味方がミスをした時、自分はどんな一言をかけるだろうか。

その一言は、味方を小さくする声だろうか。

それとも、もう一度前を向かせる声だろうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


Search

Popular Posts

Categories

Tags

PAGE TOP