日本代表の「欧州化」や、チーム内の先輩・後輩関係の変化について書かれた記事を読みました。
その中で印象に残ったのは、今の日本代表では、以前よりも先輩・後輩の関係が薄まり、年齢やキャリアに関係なく、チームの勝利に向かって必要なことを言い合える関係性が生まれているのではないか、という視点でした。
もちろん、私は日本代表の内部を知っているわけではありません。
ですから、これが正解ですと断定するつもりはありません。
ただ、メンタルコーチとして育成年代や大学年代のチームを見ていると、この視点はとても大切だと感じます。
強いチームとは、上下関係がなくなったチームではありません。
ただ仲が良いチームでもありません。
年齢や立場に関係なく、チームの目的に向かって必要な声を出し合えるチームです。
強いチームでは、年齢だけで声は決まらない
サッカーのピッチ上では、状況がどんどん変わります。
誰が近くにいるか。
誰が見えているか。
誰が声を出せる位置にいるか。
誰が今その瞬間に必要な情報を持っているか。
それは、年齢や学年だけでは決まりません。
後輩の方がよく見えている場面もあります。
若い選手の方が、相手の変化に早く気づくこともあります。
ベンチの選手が、ピッチの選手より全体を見えていることもあります。
その時に、
「先輩だから言えない」
「後輩だから黙っておこう」
「自分が言う立場ではない」
となってしまうと、チームに必要な情報が流れません。
強いチームは、年上が正しいチームではなく、目的に向かって必要な声が出るチームです。
もちろん、だからといって、年上や先輩へのリスペクトがいらないという話ではありません。
むしろ逆です。
リスペクトがあるからこそ、必要なことを丁寧に伝えられる。
相手を一人の仲間として見ているからこそ、遠慮ではなく、チームのための声を出せる。
ここが大切なのだと思います。
上下関係をなくせばいい、という話ではない
ここで誤解したくないのは、「先輩・後輩の関係をなくせば強くなる」という単純な話ではないということです。
育成年代の現場では、上下関係をなくすことだけを強調すると、少し危うい面もあります。
言いたいことを何でも言う。
相手への敬意がなくなる。
自由と好き勝手を勘違いする。
仲が良いだけで、基準が下がる。
これでは、チームは強くなりません。
必要なのは、無礼ではなく、リスペクトのある主張です。
自由ではなく、基準のある対話です。
遠慮して黙るのではなく、チームの目的に向かって声を出すことです。
声の大きい人が正しいわけではありません。
年上だから正しいわけでもありません。
年下だから黙る必要もありません。
大切なのは、その声がチームの目的に近づいているかどうかです。
勝つため。
成長するため。
苦しい流れから戻るため。
練習の質を上げるため。
仲間がもう一度プレーに戻るため。
そこに向かう声であれば、学年や立場を超えて出せるチームが強いのだと思います。
横の関係とは、礼儀をなくすことではない
アドラー心理学では、「横の関係」という考え方があります。
横の関係とは、年齢や立場を無視することではありません。
相手を下に見ることでも、上に見ることでもなく、一人の仲間として尊重する関係です。
指導者と選手。
先輩と後輩。
レギュラーと控え。
キャプテンとチームメイト。
役割は違います。
経験も違います。
責任の重さも違います。
でも、人としての価値が上下に分かれるわけではありません。
ピッチ上では、年上だから常に正しい、年下だから黙る、という関係ではなく、チームの目的に向かって必要なことを伝え合う関係が求められます。
これが、目的に向かう横の関係です。
上下関係を壊すのではありません。
目的に向かう横の関係を育てる。
この表現が、育成年代の現場には合っているように感じます。
安心と基準があるから、必要な声が出る
選手同士が必要な声を出し合うためには、安心と基準の両方が必要です。
安心があるから、若い選手も意見を言えます。
「こんなことを言ったら怒られるかな」
「先輩に失礼かな」
「間違っていたらどうしよう」
そうした不安が強すぎると、選手は声を飲み込みます。
でも、安心だけではチームは伸びません。
安心だけが高く、基準が低いと、仲は良いけれどぬるいチームになりやすい。
一方で、基準だけが高く、安心が低いと、ギスギスしたチームになります。
失敗を隠す。
本音が出ない。
怒られないために動く。
必要な声が届きにくくなる。
安心と基準が両方あるから、選手は必要な声を出せます。
安心があるから、意見を言える。
基準があるから、ただ好き勝手に言うのではなく、チームの勝利や成長に向かって言える。
リスペクトがあるから、意見の違いが対立ではなく、すり合わせになる。
この関係性が、強いチーム文化の土台になるのだと思います。
崩れても戻れるチームには、横の関係がある
最近、私は「崩れても戻れるチーム文化」というテーマを大切にしています。
サッカーでは、必ず崩れかける瞬間があります。
失点する。
ミスが出る。
判定に不満が出る。
流れが悪くなる。
味方同士の距離が少しずれる。
ベンチの空気が重くなる。
この時、チームが戻れるかどうか。
そこに、選手同士の関係性が出ます。
もし、年齢や立場に遠慮して必要な声が出なければ、チームは戻りにくくなります。
「先輩だから言いにくい」
「後輩だから黙っておこう」
「あの選手には言えない」
そうして声が止まると、悪い流れも止まりにくくなります。
一方で、目的に向かう横の関係があるチームは、失点後にも声が出ます。
「切り替えよう」
「まず中央締めよう」
「もう一回、前から行こう」
「次の5分、集中しよう」
「大丈夫。顔上げよう」
これは、偉そうな声ではありません。
相手を責める声でもありません。
チームを基準に戻す声です。
崩れても戻れるチームとは、失点しないチームではありません。
ミスをしないチームでもありません。
崩れかけた時に、ピッチ上の選手同士で必要な声をかけ合い、もう一度チームの基準に戻れるチームです。
そこには、上下関係ではなく、目的に向かう横の関係があります。
育成年代の現場で考えたいこと
育成年代の指導者にとって大切なのは、選手同士の関係性をどう育てるかだと思います。
ただ「仲良くしなさい」では足りません。
ただ「厳しく要求し合え」でも足りません。
どんな声がチームを強くするのか。
どんな言い方なら、相手を小さくせずに基準へ戻せるのか。
失点後に、誰がどんな声を出すのか。
後輩が先輩に伝える時、どんなリスペクトが必要なのか。
先輩は後輩の声をどう受け取るのか。
こうしたことを、日頃からチームで言葉にしておく必要があります。
指導者がすべてを指示するチームは、指導者がいる時は整うかもしれません。
でも試合中、最後に声を出すのはピッチ上の選手です。
だからこそ、選手たちが自分たちで必要な声を考え、出し合える文化を育てることが大切になります。
強いチームは、年齢ではなく目的でつながっています。
年上が正しいチームではなく、目的に向かって必要な声が出るチーム。
先輩だから言えない、後輩だから黙る、を超えるチーム。
無礼ではなく、リスペクトのある主張ができるチーム。
仲が良いだけではなく、高い基準に戻れるチーム。
そういうチームが、苦しい時間帯にも崩れすぎず、もう一度戻っていけるのだと思います。
最後に問いを置いておきます。
あなたのチームでは、年齢や立場に遠慮して止まっている声はないでしょうか。
そして、その声を無礼ではなく、リスペクトのある主張として出せるチーム文化は育っているでしょうか。
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