選手がブレイクしていく姿を見る喜び

メンタルコーチとしてサッカー選手の個人セッションを行っていると、時々とても嬉しい瞬間があります。

それは、選手が試合で活躍した時です。

もちろん、ゴールを決めた。
アシストをした。
チームの勝利に貢献した。

そういう結果は、見ていて素直に嬉しいものです。
思わず画面の前で「おお」と声が出ます。

最近も、昨年個人セッションで関わっていたある選手が、公式戦で大きな活躍を見せました。

その選手は、地方から上京し、プロを目指して努力している選手です。
昨年のセッションでは、自分の特徴についてこう話していました。

「型にはまったプレーを正確にやるのが、自分の良さだと思います」

これは、とても大切な自己理解です。

自分は何が得意なのか。
どんなプレーでチームに貢献できるのか。
どこに自分の安心できる土台があるのか。

それを言葉にできることは、選手にとって大きな力になります。

型を大事にする選手が、自由さを手に入れていく

昨年の彼は、まさに「型を正確にやる選手」という印象でした。

やるべきことを丁寧にやる。
ポジションを守る。
チームの約束を大切にする。
大きく崩れない。

それは、とても価値のある力です。

ただ、最近の試合では、そこに少し違う色が加わっているように見えました。

正確さに加えて、相手の意表を突くプレーが出てきた。
見ている人が「おっ」と思うような選択が出てきた。
前節でも得点し、今回の試合でもゴールを決めた。

型を捨てたわけではありません。
型を土台にして、少しずつ自由さを手に入れている。

ここが、とても面白いところです。

自由なプレーは、ただ好き勝手にやることではありません。
土台となる型があるからこそ、そこから少し外すことができる。
基本があるから、意外性が生きる。

選手の成長とは、こういうものなのかもしれません。

最初から自由に見える選手だけが、伸びるわけではない。
型を大切にしてきた選手が、その型を足場にして、自分らしいプレーを広げていく。

これは、見ていて本当に嬉しい変化でした。

ゴール以上に印象的だった「声」

ただ、今回の試合で私が特に印象に残ったのは、ゴールだけではありません。

試合中の声です。

その選手は、よく声を出していました。
仲間を励ます。
次のプレーを促す。
チームの雰囲気を明るくする。
ミスが起きても、空気を重くしすぎない。

そういう声が、スタンドから見ていても伝わってきました。

私はよく、チームの心の状態を「コップの水」にたとえて話します。

不安の水が多い時、選手は固くなります。
ミスを恐れます。
視野が狭くなります。
チャレンジが減ります。

一方で、安心の水が増えると、選手は思い切ってプレーしやすくなります。
次の一歩を出しやすくなる。
仲間を信じやすくなる。
自分の良さを出しやすくなる。

その意味で、声はチームの安心の水を増やす働きをします。

いわば、チームの空気清浄機のようなものです。

もちろん、声を出せば何でもいいわけではありません。
大きな声がいつも正解というわけでもありません。

でも、前向きな声。
仲間を現実に戻す声。
次のプレーに向かわせる声。
チームの空気を少し軽くする声。

そういう声は、確実にチームを助けます。

良い選手とは、得点する選手だけではありません。
チームの安心感を増やせる選手。
周りの選手が思い切ってプレーできる空気をつくれる選手。
チームの中に前向きな流れを生み出せる選手。

そういう選手も、大きな価値を持っています。

選手の成長は、突然ではない

選手がブレイクする時、外から見ると、ある日突然咲いた花のように見えることがあります。

「あの選手、急に出てきたね」
「最近すごいね」
「一気に伸びたね」

たしかに、結果として見えるのは一瞬です。

でも、その前に、土の中ではずっと根が伸びていたのだと思います。

日々の練習。
自分との対話。
うまくいかない時期。
試合に出られない悔しさ。
自分の良さを探す時間。
型を丁寧に磨く時間。

そうしたものが積み重なって、ある時、花が咲く。

結果の裏側には、日常の丁寧さがあります。

だから指導者や保護者は、結果が出た瞬間だけを見るのではなく、その前の時間にも目を向けたいところです。

試合に出ていない時に、どんな姿勢で練習しているか。
うまくいかない時に、自分をどう立て直しているか。
仲間にどんな声をかけているか。
自分の良さを言葉にできているか。

そういう日常の中に、ブレイクの芽が隠れています。

メンタルコーチの本当の喜び

こういう選手の姿を見ると、メンタルコーチとして本当に嬉しくなります。

ただし、「自分が変えた」と言いたいわけではありません。

それは、少し違います。

選手を変えるのは、あくまで本人です。
日々の練習をするのも本人。
悔しさを受け止めるのも本人。
自分の良さを磨くのも本人。
一歩前に出るのも本人です。

メンタルコーチにできることは、その過程に少しだけ伴走することです。

本人がすでに持っているものに光を当てる。
自分の良さを言葉にする手助けをする。
崩れた時に戻る方法を一緒に考える。
少しだけ視野を広げる問いを投げる。

そのくらいです。

でも、その「少しだけ」が、選手の中で何かにつながることがあります。

だからこそ、選手が自分の力で伸びていく姿に立ち会えることが、メンタルコーチとしての一番の喜びなのだと思います。

これは、指導者も保護者も同じかもしれません。

子どもや選手をこちらの思い通りに変えることが喜びなのではない。
本人が自分の力で伸びていく姿を、そばで見守れること。
必要な時に少しだけ支えられること。

そこに、大きな喜びがあるのだと思います。

指導者・保護者への問い

最後に、いくつか問いを置いておきます。

あなたのチームにも、まだ花開く前の選手はいませんか。

結果だけでなく、日常の振る舞いや声を見ていますか。

選手の「型」を否定せず、その先の自由さをどう引き出していますか。

チームの安心の水を増やしている選手に気づけていますか。

選手の成長は、ある日突然咲いた花のように見えることがあります。
でも、土の中ではずっと根が伸びています。

その根に気づける指導者や保護者でありたい。
そして、花が咲いた時には、本人の力を心から喜べる大人でありたい。

そんなことを、今回の試合を見ながら感じました。

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