失点後にも“避難訓練”が必要である

あるJリーグのハイライトを見ていて、少し胸が苦しくなる試合がありました。

前半を0対3で折り返し、後半開始早々に4点目を失う。
最終的には0対6。

勝っているチームは、どんどん勢いに乗っていきました。
一方で、失点を重ねたチームは、途中から「どうしていいかわからない」状態に見えました。

もちろん、外から見ているだけで本当のことはわかりません。
戦術の問題もあったかもしれない。
コンディションの問題もあったかもしれない。
相手が素晴らしかったという面もあります。

だから、負けたチームや選手を批判したいわけではありません。

むしろ感じたのは、現場の苦しさでした。

ああいう展開になると、選手は苦しい。
ベンチも苦しい。
指導者も苦しい。
応援している人も苦しい。

「何とかしたい」と思っているはずなのに、何をすればいいのかが見えなくなる。

そこに、大量失点の本当の怖さがあるのではないかと思いました。

大量失点を「気持ちが切れた」で片づけない

大量失点の試合を見ると、つい言いたくなります。

「気持ちが切れたな」
「集中が切れたな」
「戦えていなかったな」

たしかに、そう見える場面はあります。

でも、それだけで片づけてしまうと、少し雑になってしまう気もします。

選手たちは、本当に何も感じていなかったのでしょうか。
本当に諦めていたのでしょうか。

たぶん、そんなに単純ではありません。

多くの選手は、何とかしたかったはずです。
取り返したかったはずです。
流れを変えたかったはずです。

ただ、失点を重ねた時に難しいのは、気持ちがあるかどうかだけではありません。

「次に何をすればいいのか」が、チームの中で揃わなくなることです。

ある選手は、すぐに前から取り返しに行く。
ある選手は、怖くなって下がる。
ある選手は、味方に不満を持つ。
ある選手は、黙る。
ある選手は、「どうすればいいんだ」と固まる。

全員がサボっているわけではありません。
むしろ、それぞれが何とかしようとしている。

でも、その方向がバラバラになる。

ここが、チームが崩れていく本質なのかもしれません。

チームは失点で崩れるのではない

サッカーに失点はあります。

相手の素晴らしいプレーもあります。
一瞬のミスもあります。
不運なこぼれ球もあります。

だから、失点そのものが問題なのではありません。

本当に怖いのは、その後です。

失点後に、チームの次の一手がバラけること。

前に出たい選手と、下がりたい選手が同時にいる。
奪いに行く選手と、様子を見る選手が同時にいる。
つなぎたい選手と、大きく蹴りたい選手が同時にいる。
声を出す選手と、黙り込む選手が同時にいる。

こうなると、ピッチ上の距離感がずれます。
判断のタイミングもずれます。
カバーの位置もずれます。
そして、選手同士が孤立していきます。

つまり、チームは失点で崩れるのではない。

失点後に「次に何をするか」が揃わなくなった時に、崩れていくのだと思います。

失点後にも“避難訓練”が必要である

少し変なたとえかもしれませんが、これは避難訓練に似ています。

火事が起きた時、本当に怖いのは火そのものだけではありません。
その瞬間に全員がバラバラに動き出すことも怖いのです。

ある人は出口に走る。
ある人は荷物を取りに戻る。
ある人は誰かに電話をする。
ある人はその場で固まる。
ある人は「大丈夫だろう」と動かない。

こうなると、混乱は一気に大きくなります。

だから、避難訓練があります。

非常ベルを確認する。
近くの人に声をかける。
決められた出口に向かう。
押さない。
戻らない。
慌てすぎない。
最後に人数を確認する。

訓練をしているから、非常時でも「次に何をするか」を思い出せます。

サッカーの失点も、少し似ています。

失点は、チームにとって小さな非常ベルのようなものです。

その時に、全員がそれぞれの判断でバラバラに動くと、混乱が広がります。
逆に、チームとして「まず何をするか」が共有されていると、崩れかけても戻りやすくなります。

だから、失点後にも“避難訓練”が必要なのではないか。

失点してから考えるのではなく、失点した時に何をするかを、日頃から確認しておく。

これが、戻れるチームの準備だと思います。

「切り替えろ」だけでは戻れない

指導者は、失点後につい言いたくなります。

「切り替えろ」
「戦え」
「下を向くな」
「気持ちを見せろ」

私も現場にいたら、たぶん言いたくなります。
いや、実際に言ってきたと思います。

だから、指導者を責めるつもりはありません。

ただ、選手の側からすると、そこで困ることがあります。

「切り替えろ」と言われても、具体的に何をすれば切り替えたことになるのかがわからない。

前から行くのか。
一度下がるのか。
中央を閉めるのか。
ボールをつなぐのか。
大きく蹴るのか。
誰に声をかけるのか。

ここが揃っていないと、選手は動きにくくなります。

「切り替えろ」は大切な言葉です。
でも、それだけでは行動に変わらないことがあります。

必要なのは、気合いの言葉だけではありません。
次の一手を揃える言葉です。

声かけとは、元気づけることだけではない。
チームの行動をもう一度そろえるための合図でもあるのです。

失点後の「戻る手順」をチームで決める

では、どんな手順を持っておけばいいのでしょうか。

これは、チームによって違います。
年代によっても違います。
戦い方によっても違います。

だから、外から「これが正解です」と押しつけるものではありません。

大事なのは、自分たちのチームなら何を合言葉にするかを決めておくことです。

たとえば、こんな言葉があります。

「次の5分はまずゼロでいく」
「まず全員で中央を閉める」
「最初の守備を全員で合わせる」
「セカンドボールを一つ拾う」
「近くの味方の名前を呼ぶ」
「一度ラインをそろえる」
「攻め急がずに、まず簡単なプレーを一つ成功させる」
「ベンチも黙らず、次の一手を短く伝える」

どれが正しいという話ではありません。

大切なのは、失点後に選手が同じ絵を見られることです。

「次の5分はゼロでいく」と決めておけば、無理に前がかりになることを防げます。
「まず中央を閉める」と決めておけば、守備の基準を取り戻しやすくなります。
「近くの味方の名前を呼ぶ」と決めておけば、チームの沈黙を防げます。

これは、難しいメンタルトレーニングではありません。

失点後の非常ベルが鳴った時、うちのチームはまず何をするのか。
その最初の手順を決めておくということです。

指導者ができること

指導者ができることは、失点後の声を一部の選手だけに任せないことです。

キャプテンだけが声を出す。
GKだけが叫ぶ。
ベンチだけが指示を出す。
一部の選手だけが立て直そうとする。

これだと、その選手が苦しい時にチーム全体が止まってしまいます。

戻る手順は、チーム全員のものにした方がいい。

そのためには、練習の中で少し話し合う時間をつくることです。

「失点した時、うちは何をするチームだろう」
「最初の5分で何をそろえたいか」
「誰がどんな声を出せるか」
「ベンチからは何を伝えると助かるか」

こうした問いを、選手に投げてみる。

試合前にも、短く確認します。

「失点したら、まず何をする?」
「次の5分の合言葉は?」
「誰が最初に声を出す?」

試合後には、結果だけでなく、こう振り返ることもできます。

「失点後に次の一手は揃っていたか」
「誰かが戻す声を出せたか」
「ベンチの声は選手の行動につながったか」

この振り返りを続けると、失点後の行動が少しずつチーム文化になります。

最初から完璧にはできません。

一回目はバタバタする。
二回目は誰かが声を出す。
三回目は合言葉を思い出す。
四回目はチーム全体が少し早く戻れる。

それでいいと思います。

チームづくりは、一発で整うものではありません。
もし一発で整うなら、指導者の皆さんはもう少し早く帰宅できているはずです。

家庭や職場でも同じことが起きている

これは、サッカーだけの話ではありません。

家庭でも、職場でも同じことがあります。

子どもが失敗した時。
部下がミスをした時。
チームでトラブルが起きた時。

その瞬間に、周囲の反応がバラバラになることがあります。

怒る人。
黙る人。
責める人。
諦める人。
誰かに丸投げする人。

全員が悪いわけではありません。
それぞれが、その人なりに何とかしようとしている。

でも、次の一手が揃わないと、混乱は広がります。

だから、家庭でも職場でも「戻る手順」が必要です。

まず状況を確認する。
責める前に、次に必要な行動を決める。
落ち着いてから振り返る。
再発防止を一緒に考える。

こういう場は、崩れないのではありません。
崩れても戻りやすいのです。

まとめ

大量失点を「気持ちが切れた」で片づけるのは簡単です。

でも、選手たちは本当は何とかしたかったのかもしれません。
ただ、失点後に「次に何をするか」がチームで揃わなくなっていたのかもしれません。

チームは、失点そのもので崩れるのではない。

失点後に、選手一人ひとりの次の一手がバラけた時に崩れていく。

だからこそ、失点後にも“避難訓練”が必要です。

非常時に何をするか。
誰が声を出すか。
最初の5分で何を揃えるか。
どんな合言葉でチームを戻すか。

これを日常から決めておく。

失点後に必要なのは、根性論だけではありません。
戻る手順です。

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