森保監督や日本代表についての対談で、もう一つ印象に残ったのは、現在の日本代表には、自己主張と相手への尊重を両立するディスカッション文化があるという話でした。
自分の意見を言う。
でも、相手の意見も聴く。
納得して決めたことには、当事者意識を持つ。
これは、育成年代や大学年代のチームづくりにも大きなヒントになります。
強いチームは、監督やコーチに言われたから動くだけではありません。
自分たちで必要な基準を決め、日常の中で揃え始めるチームです。
「もっと声を出せ」
サッカーの現場で、とてもよく聞く言葉です。
もちろん、声は大切です。
でも、声が出るチームとは、単に声量が大きいチームではないと思います。
何のために声を出すのか。
どんな場面で必要なのか。
誰に何を届けるのか。
苦しい時に、どんな声で戻るのか。
ここが共有されているチームは強い。
逆に、声を出せと言われ続けても、選手の中で意味がつながっていなければ、声は長続きしません。
最初だけ出る。
怒られた後だけ出る。
元気な選手だけが出す。
キャプテンだけが頑張る。
これでは、チームの文化にはなりにくい。
大切なのは、選手自身が基準を言葉にすることです。
ある中学校サッカー部で、選手たちと「練習濃度を上げるための基準」について話し合ったことがあります。
こちらが一方的に「こうしなさい」と伝えるのではなく、選手たちに考えてもらいました。
練習の合間の時間をどう使うのか。
移動をどうするのか。
ミスの後にどんな声をかけるのか。
集中が切れた時に、誰がどう戻すのか。
練習の入りで、どんな空気をつくるのか。
すると、選手たちは自分たちの言葉で考え始めました。
「合間の時間をもっと大事にしたい」
「移動を早くしたい」
「ミスした時に下を向かない声が必要」
「ただ声を出すだけじゃなくて、意味のある声にしたい」
こうした言葉が出てくると、チームの空気は少し変わります。
指導者に言われた基準ではなく、自分たちで出した基準になるからです。
もちろん、一回話し合っただけで劇的に変わるわけではありません。
そんなに簡単なら、指導者はみんな午後から温泉に行けます。
実際には、決めた基準を忘れる日もあります。
空気がゆるむ日もあります。
試合になると戻れない時もあります。
でも、自分たちで決めた言葉があると、戻る場所ができます。
「さっき決めた合間の時間、どうだった?」
「今の声は、チームを戻す声だった?」
「練習の入りは、自分たちの基準に近かった?」
こう問い直すことができます。
強いチームには、ディスカッション文化があります。
ただし、それは何でも自由に言い合うことではありません。
自己主張と、相手への尊重が両方あることです。
自分の意見を言う。
でも、相手の意見も聴く。
違いを否定せず、チームとして何を大切にするかを考える。
ここにも、安心と基準が必要です。
安心があるから、選手は意見を出せる。
基準があるから、話し合いがただの不満大会で終わらない。
育成年代では、この経験がとても大切だと思います。
監督に言われたからやる。
キャプテンに注意されたからやる。
怒られたくないからやる。
それだけでは、チームの基準は自分たちのものになりにくい。
自分たちで考える。
自分たちで言葉にする。
自分たちで決めたことを、日常で試す。
できなかったら、また振り返る。
この繰り返しが、チーム文化を育てます。
基準は、紙に書いただけでは文化になりません。
日常の中に表れて初めて文化になります。
アップの入り。
練習の合間。
ミスの後の声。
ベンチの雰囲気。
負けている時の表情。
後輩への関わり。
片づけや準備の質。
そういう小さな場面に、チームの基準は出ます。
強いチームは、監督の指示で動くだけではありません。
選手たちが、自分たちで基準を揃え始めます。
そしてその基準が、声や行動や雰囲気に少しずつ表れていきます。
指導者の役割は、すべての答えを与えることではありません。
選手たちが自分たちの基準を言葉にし、日常で試し、振り返る場をつくること。
そこに、これからのチームづくりの大切なヒントがあるのだと思います。
最後に問いを置いておきます。
あなたのチームには、選手たちが自分たちで決めた基準がありますか。
その基準は、日常のどの場面に表れているでしょうか。
追記
選手が自分で考え、言葉にし、もう一度前を向く力については、電子書籍『崩れても戻れる力』にもまとめています。
ありがたいことに、この電子書籍は筑波大学 体育スポーツ局でも紹介していただきました。
メンタルコーチ 西田明氏 著書『崩れても戻れる力』- NEWS | 筑波大学体育スポーツ局
問いを持つことは、選手が自分の成長に向き合う第一歩なのだと思います。
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