筑波大学蹴球部コーチングラボで、印象的な問いが出ました。
指導者の熱量は、選手を育てる力になる。
でも、その熱量が強すぎると、選手の内側の火を消してしまうこともあるのではないか。
これは、とても大切な問いだと感じました。
もちろん、指導者の熱量が悪いわけではありません。
選手の成長を願うからこそ熱くなる。
勝たせたいからこそ伝えたくなる。
もっと良くなる可能性が見えるからこそ修正したくなる。
その思いがなければ、指導はできません。
ただ、本気であるほど、起きやすいことがあります。
こうした方がいい。
もっとここを見てほしい。
この基準でやってほしい。
勝つためには、ここを変えなければならない。
その思いが強くなりすぎると、コーチが選手より先に燃えてしまうことがあります。
すると選手は、自分の中で火をつける前に、少しお腹いっぱいになる。
考える前に答えが来る。
迷う前に修正される。
失敗から学ぶ前に、次の指示が飛んでくる。
その結果、選手が受け身になってしまうことがあります。
これは、指導者が悪いという話ではありません。
むしろ、熱心な指導者ほど起こりやすい葛藤なのだと思います。
これからの選手に必要な力
筑波大学蹴球部コーチングラボでは、コーチ陣を対象に、これからの選手像と指導者の関わり方について対話しています。
一方的に知識を伝える講義ではなく、現場で起きている問いを持ち寄り、考え合う場です。
今回のDAY2では、Japan’s Wayの流れも踏まえながら、これからの選手にどんな力が求められるのかを話し合いました。
現代サッカーでは、役割をやり切る力はもちろん大切です。
でも、それだけでは足りなくなってきています。
自分で判断する力。
仲間と声をかけ合う力。
変化に適応する力。
失敗や苦しい流れから、自分たちで立て直す力。
自ら学び続ける力。
こうした力が求められています。
では、その力はどう育つのでしょうか。
「自分で考えろ」と言えば、選手は自分で考え始めるのか。
残念ながら、そう簡単ではありません。
「自分で考えろ」と言われているのに、答えを間違えると怒られる。
「主体的にやれ」と言われているのに、すぐに修正される。
「チャレンジしろ」と言われているのに、失敗すると空気が重くなる。
これでは選手は、自分で考えるより、正解を探しにいきます。
主体性は、命令だけでは育ちにくい。
選手が考えを出せる安心と、成長に向かう高い基準。
この両方が必要になります。
安心と基準
コーチングラボでは、安心と基準の4象限を使って対話しました。
安心も基準も高いチームは、生き生きしています。
本音が言える。
挑戦できる。
ミスしても次に向き合える。
でも、基準はゆるめない。
これが目指したい状態です。
一方で、基準は高いけれど安心が低いと、ギスギスしやすくなります。
失敗を隠す。
怒られないために動く。
声が届きにくい。
本音が出にくい。
逆に、安心は高いけれど基準が低いと、ぬるくなりやすい。
仲は良い。
雰囲気も悪くない。
でも、責任が曖昧になる。
成長に向かう厳しさが不足する。
安心も基準も低いと、諦めの空気が生まれます。
無関心。
声が出ない。
見て見ぬふりが起きる。
安心とは、甘やかすことではありません。
本音を言えること。
ミスを隠さず、次に向き合えること。
わからないことを相談できること。
挑戦しても大丈夫だと思えること。
基準とは、圧力をかけることではありません。
チームが大切にしたい当たり前を言語化することです。
プレー。
声。
準備。
姿勢。
学び方。
雰囲気。
それぞれについて、何を大切にするのかを明確にする。
「もっと集中しろ」ではなく、集中している状態とは何か。
「もっと声を出せ」ではなく、どんな場面でどんな声をかけるのか。
「もっと基準を上げろ」ではなく、どの行動を変えるのか。
基準は、抽象的に叫ぶものではなく、行動に落とすものです。
コーチの熱量が選手を追い越す時
指導者は、選手より先に見えてしまうことがあります。
なぜそこで止まるのか。
なぜその判断になるのか。
なぜもっと声を出せないのか。
なぜその準備で試合に入るのか。
見えるからこそ、言いたくなる。
言いたくなるから、先に答えを渡してしまう。
もちろん、教えるべき場面はあります。
危険なプレー。
チームの約束。
明らかに基準から外れている行動。
勝つために必要な修正。
そこは伝える必要があります。
ただ、すべてをコーチが先に修正してしまうと、選手は「自分で考える前に正解を待つ」ようになることがあります。
選手は、怒られないように動く。
コーチの表情を見る。
次に何を言われるかを待つ。
自分の判断より、外からの指示を優先する。
これでは、試合中に自分たちで流れを変える力は育ちにくくなります。
指導者の熱量は、選手の火をつけるためにある。
でも、近づきすぎると、火を消してしまうこともある。
焚き火に似ています。
火をつけるには、手をかける必要があります。
でも、触りすぎると消えます。
風を送りすぎても消えます。
薪を入れすぎても、うまく燃えないことがあります。
選手の内側の火も、同じなのかもしれません。
教えることをやめるのではない
では、指導者はどう関わればいいのでしょうか。
大切なのは、教えることをやめることではありません。
必要なのは、選手が自分で考え始める余白をつくることです。
すぐに答えを言う前に、まず聞いてみる。
「今、どう見えている?」
「何が起きていると思う?」
「理想はどんな状態?」
「次に何を試す?」
「その基準をプレーにすると何になる?」
「声にすると、どんな言葉になる?」
「準備にすると、何を変える?」
こうした問いは、選手の内側の火に空気を送ります。
もちろん、毎回じっくり問いかける余裕はありません。
試合中には短く伝えなければならない場面もあります。
指導者も忙しいです。
だから、全部を変える必要はありません。
明日から一つだけでいい。
答えを言う前に、一呼吸置いて聞いてみる。
「今、どう見えている?」
それだけでも、選手との関係は少し変わります。
まとめ
指導者の熱量は、選手を育てる大切な力です。
でも、その熱量が強すぎると、選手が自分で考え始める前に、答えを受け取ってしまうことがあります。
だからこそ、これからの指導者に必要なのは、教えることをやめることではありません。
選手が考え、判断し、挑戦できる状態をつくることです。
安心を土台にする。
でも基準はゆるめない。
選手の本音が出る場をつくる。
でも成長への要求は曖昧にしない。
その関わり方こそ、これからの指導者に求められるアップデートなのだと思います。
あなたのチームでは、安心と基準のどちらが足りているでしょうか。
そして、選手の内側の火を消さないために、明日から一つだけ減らせる関わりは何でしょうか。
このたび「崩れても戻れる力」という考え方をまとめた電子書籍を出版しました。
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