― 指導者の“主語”が変わった瞬間 ―
4月のある試合の前。
行きの車の中で、私は監督にこう尋ねました。
「この前のセミナー、どうでしたか?」
少し間があって、返ってきた言葉はシンプルでした。
「いや、勉強になりました。」
私は続けて聞きました。
「具体的にはどんなところがですか?」
すると監督は、少し言葉を探しながらこう言いました。
「子どもたちが、あんなふうに自分を責めているって…正直、気づいていませんでした。」
そして、もう一つ。
「一番勝ちたかったのは、自分だったんですよね。」
この二つの言葉に、このチームの変化のすべてが詰まっていました。
■声のセッションから始まった変化
今回の取り組みは、シンプルなものでした。
チームに対して「声」をテーマにしたグループセッションを行い、
試合中にどんな声が出ていたのか、
どんな声があればチームは変わるのかを言語化していきました。
その後、アンケートで選手たちの状態を可視化し、
さらにその流れを保護者会へとつなげました。
ポイントは、時間差をつくらなかったことです。
現場で起きていることを、
そのままの温度で保護者にも共有する。
この一貫した流れが、チーム全体の理解を揃えていきました。
■見えていなかった“内側の声”
監督が気づいたのは、選手たちの「内側」でした。
ミスをしたあと
声が出ないとき
プレーが消極的になるとき
その裏で
「なんで自分はダメなんだ」
「またやってしまった」
そんな言葉を、自分に向けている。
多くの場合、指導者は“外側”を見ています。
・プレーの質
・声の量
・結果や態度
しかし、選手を動かしているのは
その前にある「内側の声」です。
ここに気づいたとき、指導のスタート地点が変わります。
■「勝たせたい」から「見守る」へ
もう一つの気づき。
「一番勝ちたかったのは自分だった」
この言葉は、とても正直で、そして本質的です。
勝たせたい
結果を出させたい
その思いは大切です。
ただ、それが強くなりすぎると
・焦り
・イライラ
・コントロール
という形で、選手に伝わってしまう。
今回、監督はそこに気づきました。
そしてその後、関わり方が大きく変わりました。
・メンバーを選手たちに任せる
・試合後のミーティングも選手に委ねる
・あえてその場にいない選択をする
一気に「任せる側」に舵を切ったのです。
■任せることと、放すことの違い
ここで一つ、大切なポイントがあります。
任せることと、放すことは違います。
任せるとは
責任ごと渡すこと。
放すとは
ただ手を引くこと。
チームが自律していくためには
・意思決定は任せる
・基準は握る
このバランスが必要です。
例えば
・どんな声を大切にするのか
・どんな姿勢を良しとするのか
この“軸”があるからこそ
任せたときにチームは崩れません。
■崩れないチームではなく、戻れるチームへ
多くのチームは「崩れないこと」を目指します。
しかし現実は、相手が強くなれば必ず崩れます。
ミスもする
流れも悪くなる
失点もする
だからこそ必要なのは
崩れないことではなく
崩れても戻れることです。
そして、その土台になるのは
技術ではなく
戦術でもなく
内側の声です。
今回のチームで起きた変化は
選手が変わったからではありません。
指導者の“主語”が変わったからです。
チームが変わる前に
まず、指導者の見ている世界が変わる。
その瞬間から、すべてが動き始めます。
■最後に(現場で試せる一つの問い)
もし、チームに変化を起こしたいと思ったときは
まずこの問いから始めてみてください。
「今、選手は自分にどんな声をかけているだろうか?」
この問いが、
指導者のあり方を一段引き上げてくれます。
(このテーマに関心のある方は、グループセッションや指導者向けの対話の場も用意しています。現場に合わせた形でご一緒できればと思います。)
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