――答えを教える育成から、ゲームの見え方を広げる育成へ
スペインのサッカー育成と聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか。
細かいパスワーク。
高い技術力。
ボールを保持しながら相手を動かすポゼッションサッカー。
もちろん、それらもスペインサッカーの特徴です。
しかし、スペインの育成から私たちが本当に学ぶべきことは、単にパスやドリブルの技術ではありません。
それは、
「選手が自分でゲームを理解し、判断できるように育てる」
という考え方です。
技術だけを切り離して教えない
例えば、選手がパスミスをしたとします。
私たちはつい、
「もっと正確に蹴ろう」
「インサイドで丁寧に」
「そこは簡単にプレーしよう」
と、目に見える結果に対して指示を出したくなります。
しかし、パスミスの原因は、本当にキック技術だけでしょうか。
パスを受ける前に周囲を見ていたのか。
味方と相手の位置をどう捉えていたのか。
どのような選択肢を持っていたのか。
なぜ、そのプレーを選んだのか。
技術的には正確なキックができても、状況を認知できていなければ、試合の中では適切なプレーを選べません。
スペインの育成では、技術、認知、判断を切り離さず、ゲームの中で一体として育てようとするそうです。
つまり、目指しているのは、
ボールをうまく扱える選手だけではなく、状況に応じて技術を使える選手
なのです。
ポジショナルプレーは「立ち位置の暗記」ではない
スペインサッカーを語るとき、「ポジショナルプレー」という言葉がよく使われます。
しかし、これは指導者が選手の立つ場所を細かく決め、その通りに動かすことではありません。
味方との距離はどうなっているか。
相手はどこに集まっているか。
どこにスペースが生まれているか。
誰が相手を引きつけているか。
次に、どこが空きそうか。
こうした関係性を読みながら、選手自身が立ち位置を調整していきます。
もちろん、チームとしての共通原則はあります。
けれども、その原則を使って最終的な答えを出すのは、ピッチに立っている選手です。
指導者の指示を忠実に再現するだけでは、刻々と状況が変わる試合には対応できません。
だからこそ、育成年代から、
「どこに立て」と教えるだけでなく、「なぜ、そこに立つのか」を考えさせる
ことが重要になります。
指導者の役割は「正解を与えること」ではない
選手がミスをすると、指導者には答えが見えていることがあります。
「逆サイドが空いていた」
「ワンタッチで出せた」
「もっと早くサポートできた」
それをすぐに教えれば、練習は効率よく進むかもしれません。
しかし、毎回答えを教えていると、選手は次第に「指導者の正解」を探すようになります。
そして試合中も、
「監督に怒られないプレーは何か」
「ベンチから何を言われるか」
「ミスをしないためにはどうすればいいか」
と、外側の評価を基準に判断するようになります。
これは、他人軸でプレーしている状態です。
一方、指導者が問いを使うと、選手の中に考える時間が生まれます。
「今、何が見えていた?」
「なぜ、そのプレーを選んだ?」
「ほかにどんな選択肢があった?」
「もう一度同じ状況になったら、どうする?」
大切なのは、指導者が想定する答えに誘導することではありません。
選手が自分の見ていた景色を言葉にし、ほかの可能性に気づくことです。
指導者の役割は、正解を与えることから、
選手のゲームの見え方を広げること
へと変わっていきます。
判断を求めれば、ミスは増える
選手に自由を与え、自分で判断させれば、当然ミスも起こります。
ここで指導者がミスを強く責めると、選手はどうなるでしょうか。
自分で判断することをやめ、失敗しない安全なプレーを選ぶようになります。
あるいは、判断を指導者に委ねるようになります。
「どうすれば怒られないか」が、プレーの基準になってしまうのです。
自分で判断できる選手を育てたいのであれば、指導者には、選手のミスを受け止める覚悟が必要です。
もちろん、何をしてもよいということではありません。
チームとしての高い基準は必要です。
ただし、
安心して挑戦できることと、高い基準を求めることは両立できます。
「挑戦したことは認める。ただ、次はどこを見れば、よりよい判断ができるだろう」
このような関わりによって、失敗は評価を下げる材料ではなく、ゲームの見え方を広げる材料になります。
スペインの育成とリバウンドメンタリティー
私は、リバウンドメンタリティーを、
「崩れない力ではなく、崩れても戻れる力」
と定義しています。
サッカーの試合では、ミスを完全になくすことはできません。
大切なのは、ミスをしたあとに何が起こるかです。
「またミスをしたらどうしよう」
「監督に怒られる」
「仲間からどう思われるだろう」
こうした不安にのみ込まれると、選手の視野は狭くなり、次の判断も遅れていきます。
反対に、
「何が見えていなかったのか」
「次はどこを確認するのか」
「今、自分ができるプレーは何か」
と捉え直すことができれば、意識を次のプレーへ戻せます。
スペイン型育成の「ゲームを理解する力」と、リバウンドメンタリティーの「崩れても戻る力」は、別々のものではありません。
失敗を振り返り、状況を捉え直し、次の判断へ進む。
その繰り返しによって、選手のゲーム理解も、自分軸も育っていくのです。
日本の育成年代で明日からできること
スペインの練習メニューを、そのまま日本に持ち込む必要はないと思います。
まずは、指導者の関わり方を少し変えることから始められます。
選手がミスをしたとき、すぐに答えを教える前に、一つだけ問いかけてみる。
「今、何が見えていた?」
そして、選手の答えを最後まで聞く。
それだけでも、選手の意識の向け先は変わります。
指導者が話す時間が減り、選手が自分のプレーを振り返る時間が増えます。
やがて選手は、指導者に聞かれる前に、自分自身へ問いかけるようになります。
「今、何が起きている?」
「自分には何ができる?」
「次はどうする?」
その内側の問いこそが、自分で判断できる選手の土台になるのだと思います。
答えを覚えた選手ではなく、答えをつくれる選手へ
サッカーには、まったく同じ場面は二度とありません。
相手も、味方も、スペースも、時間も、常に変化しています。
だからこそ、育成年代で必要なのは、指導者の答えを数多く覚えることではありません。
目の前の状況を捉え、自分で考え、仲間とつながり、その瞬間の答えを選ぶ力です。
スペインの育成から学べる最大のことは、華麗なパスワークの方法ではありません。
選手を信じ、考える余白を渡すこと。
なのではないでしょうか。
そして、失敗しても、もう一度状況を捉え直して次のプレーへ戻れる環境をつくることかもしれません。
指導者が答えを手放したとき、選手は自分の目でゲームを見始めます。
そこから、本当の意味での選手主体の育成が始まるのではないでしょうか。
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