後半終了5分前。
彼は途中交代でピッチに入りました。
時間としては決して長くない。
普通なら「何もできずに終わる」ことも多い場面です。
それでも、見ているこちらがワクワクしていました。
「この選手、何かやるな」
そんな感覚があったんです。
特別なプレーがあったわけではありません。
でも
「出せる状態にある」
それが、はっきりと伝わってきた。
この感覚は、以前にはなかったものです。
3ヶ月前、彼はこう話していました。
「試合になると緊張して、後半になると自分が試合から消えてしまうんです」
ミスをすると引きずる。
そしてそれを「自分の責任だ」と強く感じてしまう。
結果として、プレーはどんどん小さくなる。
いわゆる
「頑張っているのにうまくいかない状態」
です。
当時の彼は
・結果がすべて
・ミス=自分の価値
・評価が気になる
不安を燃料にしてプレーしていました。
この燃料は強いですが、長くは持ちません。
そこから3ヶ月。
彼はこう言うようになりました。
「最近はチャレンジできてる感覚があります」
「途中からでも自然に入れました」
何が変わったのか。
技術でもフィジカルでもありません。
変わったのは
「自分の見方」
です。
■実際のセッションでのやりとり
あるセッションで、こんなやりとりがありました。
彼は言いました。
「ミスすると、それを引きずってしまうんです」
私は問いかけました。
「その時、頭の中では何が起きてる?」
少し考えて、こう答えました。
「やばい、とか。評価下がる、とか。そんなこと考えてます」
そこで一度、整理します。
「今起きているのは“ミス”なのか、それとも“その後の考え”なのか」
彼は少し間を置いて言いました。
「…考えです」
ここが最初の分岐点でした。
さらに問いを続けます。
「じゃあ、その考えがなかったらどうなる?」
彼は少し笑って言いました。
「普通に次のプレーにいけると思います」
つまり
問題はミスではなく
「ミスの捉え方」
だったわけです。
そこで伝えました。
「出来事と、解釈は分けられる」
続けて、こんな問いを投げました。
「うまくいってる試合って、何を考えてない?」
彼はすぐに答えました。
「評価とか、全然考えてないです」
この瞬間
彼の中で一つのつながりが生まれました。
・うまくいかない時 → 評価を考えている
・うまくいく時 → 評価を考えていない
ここから
「何をするか」ではなく
「何を手放すか」
に意識が変わっていきました。
そして最後に、こう整理しました。
「良い状態を作るんじゃなくて、戻れるようにしよう」
彼はうなずきながら言いました。
「それならできそうです」
■では、どうやって「戻れるようになったのか」
ここが実践のポイントです。
彼がやっていたことは、とてもシンプルです。
① 「今」に戻る言葉を決めた
プレー中にズレたと感じたら
心の中で短く
「今」
と唱える
たったこれだけです。
② 呼吸でリセットする
焦りや不安を感じたとき
一度ゆっくり息を吐く
吸うよりも「吐く」を意識することで
体の緊張が抜け、視野が戻ります
③ 考えすぎに気づく
ミスのあと
「今、自分は何を考えているか」
と一瞬立ち止まる
すると多くの場合
「評価」「結果」「過去」
に意識がいっていることに気づきます
この3つを繰り返すことで
「崩れない選手」ではなく
「崩れても戻れる選手」
になっていきました
■変化の本質
ここが一番重要です。
彼に起きた変化は
「不安がなくなった」ことではありません。
不安もある
緊張もある
それでも
「プレーできる」
つまり
「不安がない選手」ではなく
「不安があってもプレーできる選手」
に変わったのです。
冒頭のシーンに戻ります。
後半終了5分前。
短い時間の中でも
「何かやってくれそうだ」
そう感じさせた理由。
それは
技術でも戦術でもなく
「状態」
です。
プレーの前に
すでに勝負は始まっています。
■指導者への問い
選手に求めているのはどちらでしょうか。
・常に良い状態でいること
・崩れても戻れること
前者を求めると、選手は苦しくなります。
後者を育てると、選手は強くなります。
最後に、この選手に伝えた言葉です。
「もう“良い状態を作る選手”じゃない」
「崩れても戻れる選手になってる」
少し照れながらも、どこか余裕のある表情でした。
■まとめ
・良い状態はコントロールできない
・パフォーマンスには波がある
・だからこそ「戻れる力」が重要
■明日からできる関わり方
現場でそのまま使える一言です。
・「今に戻ろう」
・「次のプレーに集中しよう」
・「戻れるから大丈夫」
これだけで
選手のエネルギーは変わります。
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