PK戦を見ていると、こんな場面に出会うことがあります。
「え、またそっち?」
「そろそろ変えてもよくない?」
最近の国際大会でも、PK戦でゴールキーパーが何度も同じ方向に飛び続け、結果として止められず、試合後にかなり厳しい声を浴びたケースがありました。
SNSでは
「なぜ変えなかったんだ」
「もう読まれてるだろ」
という声がたくさん出ていましたが、メンタルコーチの立場から見ると、ここで起きていたのは**技術や戦術よりも“心の状態の問題”**だったように感じます。
しかもこれは、トップレベルだけの話ではありません。
育成年代の試合では、毎週どこかで起きています。
試合中、選手の頭の中ではこんな会話が起きている
PK戦で2本続けて同じ方向に飛んで止められなかったとします。
この時、頭の中ではだいたいこんな独り言が始まります。
「うーん…でも最初に決めたしな」
「ここで変えたら、さっきの判断ミスってことになるよな」
「変えて失点したら、“なんで変えたんだ”って言われそう…」
で、結局こうなる。
「…もう一回、同じでいくか」
これ、めちゃくちゃ人間らしい反応です。
意志が弱いわけでも、勇気がないわけでもありません。
人の脳は基本的に、
・ 一貫していた方が安全
・ 今さら変えるのはリスク
と感じやすい仕組みになっています。
途中から目的がこっそり変わっていく
最初の目的はもちろん、
・相手のシュートを止めること
だったはずです。
でも失点が続くと、目的が少しずつすり替わっていきます。
・判断を変えて失敗したくない
・これ以上、目立つミスをしたくない
つまり、
「止めにいく」よりも「これ以上やらかさない」モード。
これ、GKだけの話じゃありません。
- ドリブルで取られたあと、急に仕掛けなくなる
- シュート外したあと、次は打たなくなる
- パスミスしたあと、安全な横パスしかしなくなる
これ全部、心が守りに入っているサインです。
実はここで「考えすぎ脳」になっている
この状態のとき、脳では何が起きているかというと、
・前頭前野(考える・抑える・正解を探す脳)が働きすぎています。
前頭前野がフル稼働すると、
- 動く前に一度止まる
- 正解探しモードになる
- 体の自動運転が解除される
結果として、
👉 判断が遅れる
👉 反応が鈍くなる
👉 動きが硬くなる
いわゆる「考えすぎて重くなる」状態です。
「なるようにしかならん」で切り替わる脳の回路
面白いのは、選手がふっとこう思えた瞬間です。
「もう考えてもしゃあない」
「なるようにしかならん」
このとき何が起きるかというと、
- 前頭前野のブレーキが緩む
- 自動化された動きの回路が主役に戻る
つまり、
👉 考えて動く → 感じて反応する
に切り替わります。
よく選手が試合後に言いますよね。
「無意識でした」
「体が勝手に動きました」
これは気合や根性の話ではなく、
脳の電気信号の通り道がショートカットされた状態なんです。
電気信号のスピードそのものが速くなったわけではなく、
チェックや迷いの工程が減ることで、
「めちゃくちゃ速く反応できている」と感じる状態になります。
これが、フローやゾーンに入る入り口です。
PK戦では“切り替える余白”がなくなっていく
PK戦のように一発で勝敗が決まる場面では、
- ミスがはっきり見える
- 周囲の視線を強く感じる
- 取り返しがきかないと思いやすい
その結果、
「なるようにしかならん」と開き直る余白が、
どんどん削られていきます。
すると、
- 前の判断にしがみつく
- 選択肢が見えなくなる
- 最後に急に変える(いわゆるヤケクソスイッチ)
こういう流れになりやすい。
これは判断力の問題ではなく、
心の余白がなくなっていくプロセスなんです。
指導者ができる、地味だけど効く関わり
試合中、選手の判断が固まっているときほど、
ついこう言いたくなります。
「もっと考えろ!」
「さっきと同じじゃダメだろ!」
…正直、私も昔は普通に言ってました(笑)
でもそのとき選手に一番必要なのは、
戦術よりも先に、こんな一言だったりします。
- 「さっきのプレーはもう終わり。次は新しい1回だよ」
- 「思い切っていっていい」
- 「大丈夫」
この一言で、
選手の中の“失敗回避モード”が少し緩みます。
すると、また判断の幅が戻ってくる。
まず心のブレーキを外す。
技術の指示はそのあとで十分です。
最後に
PK戦で同じ方向に飛び続けてしまったゴールキーパーも、
きっと頭の中では何度も迷っていたはずです。
「変えた方がいいかな」
「でも今さら変えるのも怖いな」
その迷いの中で、心の余白が削られていった。
私はそんなふうに感じています。
だからこの話は、
誰かを責めるためのエピソードではなく、
👉 大事な場面ほど、心の状態が判断を左右する
という、とても分かりやすい教材だと思っています。
育成年代で本当に育てたいのは、
正解を当てる力よりも、
自分で修正できる心の余白なのかもしれません。
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