【指導者必見】選手の信頼を得る「心の器」を広げる方法〜ユング心理学に学ぶ“シャドー”との向き合い方〜
今回は、サッカー指導者としての「人間力」を深め、選手からの信頼を一段と高めるヒントをお届けします。
テーマは【シャドーの統合】──ちょっと聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは心理学者ユングが提唱した「自己実現」の中核をなす重要な概念です。
しかもこの考え方、選手のメンタル指導だけでなく、指導者自身の在り方やチーム全体の雰囲気づくりにも深く関わるんです。
自己実現とは?ユングの定義をやさしく解説
ユングは「自己実現」を以下の3つの要素から成るものと定義しています。
- 自分の可能性を開花させて、より“自分らしく”生きること
- 無意識下に抑えてきた感情や欲求(=シャドー)を統合すること
- 自分の中の対立する側面(例:強さと弱さ)を調和させること
とくに今回は、2番目の【シャドーの統合】にフォーカスしてお話しします。
「シャドー」ってなに? 〜実は誰もが持っている“心の影”〜
シャドーとは、自分にとって“不都合”だと感じて無意識に押し込んでしまった感情や欲求のことです。
たとえば、「強くなければならない」と思い込んでいる人は、自分の「不安」や「弱さ」を見て見ぬふりをしてしまいがち。
でもその感情たちは、消えたわけではありません。
無意識の“影”として心の奥で動き続け、ふとしたときに他者への怒りや違和感として現れることがあるのです。
シャドーを統合できていないときの実例
たとえば、ある指導者が「泣く選手が許せない」と感じるとします。
それは、自分自身の「弱さ」を否定して生きてきた結果かもしれません。
その場合、選手の涙に対して共感するどころか、怒りが湧いてしまう。
「いつまでめそめそしてるんだ!」と、感情的に叱ってしまう──そんな経験、心当たりはありませんか?
これこそ、抑圧されたシャドーが無意識から振り回してくる典型的なケースです。
指導現場での実践例:シャドーを統合した指導者たち
【ケース1】A監督の“心を見せる”勇気
以前、選手に対して「もっと気合を入れろ!」と叱責ばかりしていたA監督。
しかし、ある日、自分自身が「選手の失敗が怖い」と思っていることに気づきました。
それを認め、ミーティングで「実は俺も不安なときがある」と打ち明けると、選手たちは驚くほど素直な表情で話し始めたのです。
→「共感できる指導者」へと変わった瞬間でした。
【ケース2】Bコーチがチームに“安心”をもたらした例
チーム内が「勝利への自信」に満ちている一方で、細かいミスが増えていた。
Bコーチはその空気に違和感を覚え、「実は不安も感じている」と選手に伝えたところ、
「実は僕も…」という声がポツポツ出てきた。
結果、選手たちは「不安を話していい場所」だと感じ、試合前の緊張も自然と和らいでいった。
シャドー統合のためのシンプルなステップ
以下のようなステップを意識することで、シャドーの統合が進みやすくなります。
1. 自分の感情に気づく
「今、なぜイライラしている?」「プレッシャーの源は何?」と問いかけてみる。
2. 感情を言葉にする
「焦り」「恐れ」「不安」など、名前をつけるだけで扱いやすくなります。
3. チーム内で“弱さ”を共有できる環境を作る
試合前に「緊張してる人?」と手を挙げさせてみるのもひとつの方法です。
4. 指導者自身が“弱さ”を見せる
選手は「強さ」だけでなく「人間らしさ」に心を開きます。
家族・チーム・組織での“シャドーの肩代わり”に注意
興味深いのは、自分が向き合わないシャドーを、他人が“代わりに”表現することがあるという点です。これを心理学では「シャドーの肩代わり」と言います。
例:
- 親が怒りや弱さを抑圧すると、子どもが問題行動を起こす
- 社長が不安を抑えすぎると、社員がネガティブ思考に偏る
→ チームでも同じことが起きます。
監督が不安を否定しすぎると、選手の中でそれを“爆発させる役割”を担う人が出てきてしまうこともあるのです。
シャドーの中に、あなたの成長の“鍵”がある
ユングはこう言いました。
「シャドーの中に黄金がある」
シャドーと向き合い、受け入れ、統合していくプロセスこそが、
指導者としての深み、人としての厚みをつくる旅路です。
そして、あなたのその変化が、選手たちの成長の土台になる。
ぜひ、今日から「見たくない自分」にも優しく目を向けてみてください。