「怪我中の選手が“思考停止”に陥るとき」
~観る力と考える力を育てるために~
怪我で試合に出られない選手は、どんな心理状態にあると思いますか?
先日、ある大学サッカー部の選手とのセッションで、こんな問いかけから始まりました。
「正直、チームの勝ち負けがどうでもよくなってきたんです」
彼は怪我を抱えながらも、ピッチの外から試合を観ていました。しかし次第に、チームへの興味も、自分の成長意欲も薄れていくのを感じていたそうです。
■「自分じゃなくても誰かがやってくれる」
彼の話を深掘りしていくと、こんな内面が見えてきました。
- 自分が動かなくても、先輩たちが戦術的な指示を出してくれる。
- 周囲の選手のプレーが以前ほど「参考にしたい」と思えない。
- 自分が得意としてきた「考えてプレーする力」が鈍ってきている。
- それに気づきながらも、「まぁいいか」と思う自分がいる。
これは多くの指導者が経験している「成長の停滞」そのものです。特に、戦術的理解や俯瞰力を武器にしてきた選手ほど、思考停止は深刻なサインになります。
■「外から観て学ぶ力」は訓練できる
面白かったのは、彼自身もかつては「自分が出ていなくても、他選手の動きを見て学んでいた」ことを思い出したことです。
「関東リーグの試合では、自分のポジションの選手を意識的に観て、参考になる動きを盗んでました」
その視点が、今はなくなっている。
でも彼は、自分の未来を想像したときに、はっきりと気づきます。
「このまま何も考えずに過ごすと、能力のない自分が埋もれてしまう。考えてきた自分だからこそ生き残れたのに」
■小さな一歩:「観察力の解像度を上げる」
彼が出したアクションプランはシンプルでした。
- 同じポジションの選手を「一人決めて」試合中ずっと観る。
- 上手だと感じたプレーに対して「言葉で伝える」。
- アドバイスよりも「観ていたよ」「上手だったよ」という声かけから始める。
これは、誰にでもできるチーム貢献であり、観る力を育てる第一歩です。しかもこのプロセスは、“復帰後に戦術的リーダーとしてチームを動かす力”につながります。
■指導者としてのヒント
このセッションから、私たち指導者が得られる示唆は以下の3点です。
- 「怪我中の選手はサッカーを学ぶ最高のチャンス」であることを、本人が再認識できるよう働きかける。
- 「考える習慣」を失っている選手に気づく視点を持つ。
- 「観る力」を鍛える具体的な方法(観察・言語化・共有)をチーム全体に導入する。
最後に
「もう一度、観る力を取り戻そうと思うんです」
そう語ってくれた彼の姿は、まだピッチに立っていなくても「すでにチームの中心に戻り始めている」ように見えました。
怪我の期間を「空白」にせず、「鍛錬」の時間に変えるために——。
私たち指導者もまた、その支えとなる関わりを続けていきたいですね。