若手ヘッドコーチが一番しんどい時期に起きていたこと
――「自分が勝たせなきゃ」という思いが、実は一番チームを苦しくしていた話
「自分が勝たせなきゃ」
「自分が何とかしなきゃ」
「俺が全部見ておかないと…」
若手ヘッドコーチほど、この言葉を心の中で何度もつぶやきます。
責任感が強く、真面目で、チームのことを本気で考えているからこそです。
今回ご紹介するのは、そんな“ど真ん中の熱量”を持った若手ヘッドコーチのケースです。
もちろん、すべて匿名です。
導入当初の状態は、わかりやすく言うと「全部ひとりで抱えていた」
当時の彼は、こんな状態でした。
- 「勝たせられないのは自分の責任」と思い込む
- スタッフに任せたいけど、結局すべて自分で判断
- 意見が違うと感情が先に出てしまう
- 正解を探しすぎて決断が遅れる
- 常に頭がフル回転で、心はどこにも休憩所がない
本人は大真面目でしたが、外から見ると
「コーチ兼マネージャー兼広報兼雑用係」みたいな状態です。
これでは、心がすり減らない方が不思議です。
やったことは、意外なほど地味でした
実施したのは、次の3つだけです。
- 月1回の個別対話
悩みと感情を、とにかく全部吐き出す時間 - 思考と感情の言語化
「事実」と「自分の解釈」を分けて書き出す - リーダー像の再設計
「完璧なリーダー」から
「信頼して任せるリーダー」へ
派手なトレーニングは一切ありません。
筋トレもしません。走り込みもしません。
やっていることは、ほぼ“心の棚卸し”です。
1年後、コーチ自身に起きた変化
1年後、いちばん変わったのは「判断」と「任せ方」でした。
- 迷って先送り → 基準を持って即決
- 細かい指示 → 強みを信頼して任せる
- 結果に一喜一憂 → 感情が常にフラット
- 正論で説得 → 背景を聴いて共感
本人の言葉を借りると、
「前はずっと“試合中の自分”だった。今は“俯瞰の自分”がいる感じ」だそうです。
これは地味ですが、ものすごく大きな変化です。
おもしろいのは、チームの変化は“コーチが変わった後”に起きたこと
不思議なもので、コーチが少しずつ変わると、
チームも少しずつ変わっていきました。
- ベンチのイライラが消えた
- スタッフ同士が落ち着いて話せるようになった
- 選手が「指示待ち」から「自分で考えて動く」ようになった
- 控え選手の表情まで明るくなった
- 終盤に簡単に崩れなくなった
特別な戦術練習を増やしたわけでもありません。
フィジカルを倍にしたわけでもありません。
変えたのは、たったひとりの「心の状態」だけ。
それなのに、チーム全体が変わっていったのです。
リーダーの心は、想像以上にチームに“感染”する
このケースから、あらためてはっきりしたことがあります。
リーダーの「心の状態」は、
チーム全体にそのまま広がる。
これは気合でも根性論でもありません。
れっきとした「構造」の話です。
- 不安なリーダーの下では、不安なチームが育つ
- 余裕のあるリーダーの下では、挑戦できるチームが育つ
至ってシンプルです。
指導者へのメッセージ
指導者の多くは、
「もっと勉強しなきゃ」
「もっと良い練習をしなきゃ」
と思いがちです。
もちろん、それも大切です。
でも、それ以前に大切なのは――
「自分の心の状態を、きちんと整えているか」
という問いかもしれません。
- 最近、眠れていますか?
- スタッフを信頼できていますか?
- 何でも自分で抱えていませんか?
選手のメンタルを語る前に、
実は「指導者自身のメンタルこそが、最も影響力の大きい“戦術”」なのかもしれません。
まとめ
- 若手ヘッドコーチほど、責任感で自分を追い込みやすい
- メンタルは「根性」ではなく「設計・管理」できる
- 指導者が変わると、チームは静かに、しかし確実に変わる
- チーム改革の第一歩は、戦術ではなく「指導者の心」から始まる
チームを変えたいなら、
まずは 「自分の心の扱い方」から 見直してみる。
それが、最短で、最も安全なチーム強化かもしれません。
