サッカー指導者のための学び
――選手の自発性と「共同体感覚」をどう育むか――
1. 一ヶ月での変化が示すもの
ある大学サッカー部員が、ケガやブランクから復帰する過程で気づいたことがあります。それは「頑張れば一ヶ月でここまで来れる」という実感でした。体力面を戻すために週6日のトレーニングを積み重ね、さらに審判として公式の場に立つことも経験しました。
ここで大切なのは「続けてきた自発性が途切れなかった」ということです。やらされ感ではなく、「自分がやりたいから取り組んでいる」という主体的な姿勢こそ、濃い一ヶ月を作り出す原動力になっていました。
2. 組織の力と仲間の存在
復帰にあたり、同期から「説明不足のままでは後で自分が困る」と厳しく指摘を受け、対面での説明の場を設けることになりました。結果的に25人もの仲間が集まり、真剣に話を聞いてくれたことは、大きな支えとなりました。
「言い合える関係性」があるからこそ、本人は自分の甘えに気づき、組織の中で責任ある行動をとろうと決意できたのです。
3. フットボールを「再び楽しめる」感覚
復帰後初めて審判を務めた試合で、彼は「フットボールってこんなに楽しかったっけ?」と心から感じたといいます。プレーヤー時代以上に楽しめたのは、勝負の駆け引きに真剣に関わり、チームと一緒に空間を作り上げている「共同体感覚」によるものでした。これはアドラー心理学でいう、他者と共にある感覚=共同体感覚の体現といえるでしょう。
4. 違和感から学ぶ ― 新しいコミュニティでの立ち振る舞い
彼が直面したもう一つの学びは「組織文化との違和感」でした。審判コミュニティでの懇親会に参加したとき、「学びの場の直後に徹夜で飲む」という文化に強い疑問を抱きました。自分の生活リズムやトレーニング計画を大切にした結果、彼は早々に場を離れました。
大切なのは、この違和感をただ否定するのではなく「自分の価値観」と「組織の価値観」を見比べ、自発的にどう関わるかを考えることです。仲間づくりの方法は飲み会だけではありません。レクチャー直後に感想を共有する、自分から声をかけて自己紹介するなど、別の形で関係性を築くこともできるのです。
指導者へのヒント
- 主体性を尊重する声かけ
「やりたいからやる」という気持ちを後押しすることが、継続と成長につながります。 - 仲間からのフィードバックを歓迎する文化づくり
厳しい指摘を言い合える関係性が、組織全体の成長を促します。 - 違和感を大切にする
「なぜ違和感を覚えるのか?」を問い直すことは、自分の価値観を確認するチャンス。選手も同じように、チーム文化の中で自分の立ち位置を見つけていきます。
このエピソードは、選手や指導者が「自発性」と「共同体感覚」をいかに育むかを示す貴重な学びです。あなたのチームでは、選手が自ら動きたくなる環境づくりができているでしょうか?