なぜ尾花夏樹は三ツ星にこだわったのか

──グランメゾンが視聴者に支持された理由

グランメゾン・パリを観て
指導者として
そして一人の人間として
最初に浮かんだ問いはこれでした。

なぜ夏樹は
あそこまで三ツ星にこだわったのでしょうか。

三ツ星は
自分で決められるものではありません。
完全に他人が与える評価です。

それでも
彼はそこに挑み続けました。

この違和感を手がかりに
物語を見直していくと
この作品が
なぜ多くの視聴者に支持されたのか
その理由が少しずつ見えてきます。


他人軸は悪なのでしょうか

指導の現場では
自分軸を大切にしよう
他人軸に振り回されるな
という言葉をよく耳にします。

たしかに
そうありたいと思います。

ただ
勝敗や評価が
まったく気にならない指導者が
どれくらいいるでしょうか。

結果は気になりますし
周囲の目も気になります。
それは弱さではなく
人として自然な反応です。

夏樹も同じでした。

三ツ星は
料理の目標である以前に
失われた立場や
自分は何者なのかという問いに
答えを出すための象徴だったように見えます。


それでも夏樹は料理をやめませんでした

この物語で
最も大事なのは
ここだと思います。

夏樹は
評価を失っても
料理そのものを
やめませんでした。

もし
三ツ星だけが目的だったのなら
途中で折れていたはずです。

居場所を失っても
厨房に戻りました。
鍋の前に立ち続けました。

他人の評価に揺れながらも
料理からは離れませんでした。
この一点は
最後まで変わりません。


夏樹を支えていた動機は何だったのでしょうか

夏樹を支えていたのは
三ツ星でも
称賛でもありません。

自分の感覚に嘘をつかず
料理と向き合えているかどうか。
そこだったのだと思います。

条件が悪いとき。
評価に寄せた方が
楽なとき。
迎合した方が
うまくいきそうなとき。

そうした場面で
自分の感覚を裏切りそうになると
夏樹は不安定になります。

一方
味と向き合っているときの夏樹は
驚くほど静かで強く見えました。

三ツ星は
その感覚が
どこまで通用するのかを
確かめるための舞台だったのだと思います。


同じ目標でも 動機が変わると意味が変わります

物語の後半になっても
三ツ星という目標自体は変わりません。
変わったのは
そこに向かう動機でした。

前半の夏樹の動機は
失った評価を取り戻したい
自分は間違っていなかったと証明したい
という
自分の評価に向いたものでした。

この動機のもとでは
料理はどうしても重くなります。
一皿ごとに
自分の評価が乗ります。
焦りや緊張が
周囲との摩擦を生みます。


ラストシーンで起きたこと

最後の場面で
リンダが抱きついて
「美味しかった」と言います。

ここで届けられたのは
点数や評価ではなく
体験としての
いい時間だった
という感触でした。

その直後
夏樹は仲間たちに向かって
こう言います。

みんなのおかげで
お客様に
いい時間を提供することができた。

この言葉には
三ツ星も
評価も
自分の手柄も出てきません。

語られているのは
みんな
お客様
いい時間
その三つだけです。


動機の向きが変わった瞬間です

ここで
夏樹の動機の向きが
はっきりと変わっています。

自分がどう評価されるか
から
目の前の人に
どんな時間を届けられたか
へ。

これは
自分を消したということではありません。

自分の感覚が
誰かの幸せとして
返ってきた瞬間だったのだと思います。

このとき
夏樹は
料理に一番力が出る場所に
立っていたのではないでしょうか。


なぜ 人はこのとき力を発揮できるのでしょうか

人は
自分を守るために動いているとき
どうしても
意識が分散します。

失敗したらどうしよう。
評価が下がったらどうしよう。
間違っていたらどうしよう。

一方
動機が
誰かの幸せに向いたとき
考えることは
とてもシンプルになります。

どうすれば
目の前の人が
いい時間を過ごせるか。

そこに集中できます。

この集中状態こそが
人が
本来の力を発揮するときの
土台になるのだと思います。


指導の現場に重ねてみると

指導者も
同じところで揺れます。

勝たせなければならない。
評価されなければならない。
間違ってはいけない。

その動機で立つと
言葉は硬くなり
関係はぎくしゃくします。

一方
この場を
いい経験にしたい
選手に
いい時間を残したい
という動機に立ったとき
指導は
驚くほどシンプルになります。


最後に

夏樹も
三ツ星に揺れました。
他人の評価と
自分の感覚のあいだを
何度も行き来しました。

それは
指導者である自分自身も
同じです。

最後に夏樹が口にしたのは
評価の話ではありませんでした。

みんなのおかげで
お客様に
いい時間を提供することができた。

その言葉を聞いたとき
この映画を通して
自分自身が
今どんな動機で
現場に立っているのかを
少し立ち止まって
見直すきっかけをもらった
そんな気がしています。

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